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2025年9月14日(日)に「第5回中高生のためのイノベーションセミナー We Create Chemistry -持続可能な未来をつくる化学反応-」を開催いたしました。今回も、前回と同じく対面とオンラインでのハイブリット開催で、現地開催ならではの臨場感がありながらも、全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。総合司会は植村知博先生(お茶の水女子大学理学部生物学科教授)が担当いたしました。

講演の部

最初に、川勝麻美様(BASFジャパン株式会社化学品中間体事業部事業部長)からBASFジャパン株式会社のご紹介をしていただきました。BASFは総合化学メーカーであり、ドイツに本社があります。生産拠点はアメリカ・ベルギー・中国・マレーシアにあり、世界中で約11万人の従業員がいます。1865年に設立されて以降、1869年に合成染料の開発、1902年にハーバー・ボッシュ法を用いた人工合成アンモニアの世界初の大量生産、1930年代の磁気テープの開発、1951年の発泡スチロールの開発で時代を牽引してきました。

現在も化学技術を用いて環境問題に貢献する商品の開発を行っています。近年ではサメ肌の構造に発想を得たフィルムを航空会社に提供しました。航空機の表面に取り付けることで空気抵抗を減らし、燃料消費量を削減に貢献できるといいます。他にもリサイクル素材によるジャケットをアパレルメーカーと協力して発売することで、繊維廃棄物削減に向けての取り組みも行っています。


 

次に、ハシビ・ゼイダム様(BASF ジャパン株式会社代表取締役社長)のご講演で、これまでのキャリアについて語っていただきました。ゼイダム様はブラジルのテレジナ市の生まれです。来日したのは17歳の時で、文科省の奨学金を得て、大学の卒業を目指していました。来日したばかりの時は文化も言語も知らないことだらけで大変だったといいます。東京の渋谷近くにある日本語学校で半年ほど学び、片言の日本語ができる状態で福井高専へ進学されました。渋谷の雑踏や福井の雪国での生活は温暖な田舎町から来たゼイダム様にはとても刺激的な体験だったようです。福井高専で化学を3年間学んだ後に、豊橋技術科学大学へ進学し、修士課程を卒業しました。

入社してからはエンジニアとして、10年間CAEシミュレーションを担当しました。CAEシミュレーションでは頑丈なものを作るために、実際に材料を用いて作成するのではなく、シミュレーションで検証します。解析して提案したものが認められた時の喜びはとても大きいものだったといいます。また、5年間シンガポールへの出向も経験しました。ここではマーケティングの経験を得ることができ、社内外のいろんな人と出会い、異文化を経験できたのは面白く、多くのことを学びました。27年間BASFで複数の職務を経験し、現在では社長を担当されています。日々新たな学びがあり、工学の知見を幅広く活かすことができているといいます。ご自身の経験を振り返って、「進みたい道があれば、努力をすれば必ず道が開きます。毎日新たな取り組みや勉強を怠らずに進み続けることが大事です。そして好きなことを見つけてそれをとことん突き詰めれば、きっと楽しく過ごすことができるはずです。」と締め括られました。


 

最後に、髙橋晴菜様(BASF ジャパン株式会社パフォーマンスマテリアルズ事業部)から「リケジョ先輩の働き方」と題して、BASFジャパン株式会社での一日の勤務の流れをご紹介いただいたのち、仕事のやりがいと苦労、これまで辿ってきたキャリアをご講演いただきました。

髙橋様はBASFでエンジニアリングプラスチックの評価試験や、ラボのデジタル化プロジェクトをされています。前者の仕事に登場するエンジニアリングプラスチックとは車の材料で利用されるような摩擦や圧力に強い素材で、そうしたプラスチックの化学的分析や物性評価を行います。お客さんから素材の使用用途と必要とする試験を伝えてもらい、それに対応して結果を報告する仕事です。素材がどう使われるのかがわかって面白いと感じる反面、大学院では機械系を専門としていたため、化学の知識に苦労することもあるといいます。後者では世界中にあるBASFのラボの実験データを一元管理するプロジェクトで、毎週英語で会議をする必要があり、留学の経験が活きて、やりがいを感じるそうです。

髙橋様は幼い頃から100円ショップが好きで、多種多様な色・形状・硬さになる変幻自在なプラスチックに特に惹かれていたといいます。中学校の修学旅行では原宿の大きな100円ショップに行くことを熱望するほどだったといいます。趣味で手芸もしており、レジンや樹脂粘土を使って小物を自作するようにもなりました。また高校時代がちょうど家庭用3Dプリンターが広まり始めた時期で、大学で九州大学工学部機械工学コースに進学され、サークル活動で3Dモデリングをデザイン系の学生と一緒に楽しんでいました。大学院ではゲルアクチュエーターという「やわらかい」ロボットを作るためのマイクロサイズのパーツを作る研究をされていました。学会発表も複数回行い、研究にも打ち込んでいらっしゃいました。BASFで内定を得た後に、スウェーデンへの半年間の交換留学へ行かれました。留学を通じて高分子化学・高分子物理の専門性を高めるとともに、積極的に友達も作ることができ、大変実りの多い留学だったといいます。皆さんへのメッセージとして、「外の世界へ出よう」と結ばれていました。

 

質疑応答

ご講演の後に質疑応答の時間を設けました。今回も対面会場・オンライン双方の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

Q サメ肌のフィルムなど、新製品の開発にはどれくらいかかりますか。また、開発期間中に世界の需要が移り変わってしまった時はどうしますか。

A (川勝様)サメ肌のフィルムの場合は3年程度かかったと聞いているがそれは早い方で、農薬や医薬の分野だと特に10年かかるのも珍しくないです。そのため、会社としては利益の出る事業かどうかを判断して、ふるいにかけて選択と集中を行っています。

Q 将来、子どもをもつと海外転勤や出張が多い場合は大変になるかと思います。BASFではそうした人を支える仕組みが整っていると感じますか。

A (ゼイダム様)我が社ではお客様だけでなく社員の幸せも重要視しており、育児休業は男女問わず積極的に取れるようにしています。また、出張の調整や海外出向の時には個人のキャリアプラン・ライフプランを考慮に入れるようにしています。