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2022年9月25日(日)に第2回フロントランナーセミナーを開催いたしました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、引き続きオンラインでの開催となり、全国各地の沢山の方々にご参加いただきました。司会はお茶の水女子大学 理系女性育成啓発研究所の近藤るみ准教授が担当いたしました。


最初の講演は、金子 真紀様(インビティ株式会社 クリニカルゲノミクス サイエンティスト)「一年留学が早30余年 ~アメリカで変わりゆく私のキャリア」というテーマでお話しいただきました。
金子様は小さいころから自然が好きだったことから、お茶の水女子大学理学部生物学科に進学されました。大学でショウジョウバエを扱う進化遺伝学の研究室に入り、中学生のときにテレビで紹介されているのを見てからずっと関心のあった「生物時計」に関する研究を始めました。「生物時計」とは、日周などに関わらず生物が元々体内にもっている一日のバイオリズムをつくる機能です。
金子様は海外留学に憧れがあり、研究室の先生から勧められたことで一年間米国留学をすることにしたそうです。留学では、生物時計に関するPeriod遺伝子を発見し、2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞したジェフリー・ホール博士の研究室で研究に取り組まれました。その後ホール博士のもとで博士号を取得し、15年間米国で研究を続けてきました。
しかしヒトの遺伝性疾患の研究をする中で、患者さんと直接向き合いたいという気持ちが強くなり、サラローレンス大学で遺伝カウンセラーの資格を取得されました。遺伝カウンセラーは遺伝子検査などを通して患者や家族が遺伝に関する意思決定を助ける仕事で、米国で需要が高まっているそうです。
金子様は小児病院での勤務を経て、現在は遺伝子検査会社で遺伝データの解析などをされています。人の役に立つという達成感のある仕事ですが、命に関わる疾患を伝えなくてはいけない辛い場面もあったそうです。研究者というバックグラウンドならではの視点が役立っていることもあり、学んで身につけてきたことは必ずどこかで役に立つということを実感しているそうです。

次の講演は、八角 優子様(トム通信工業株式会社 技術3部 主幹技師)「通信機器メーカーでのソフトウェア開発の仕事とは」というテーマでお話しいただきました。
八角様はお茶の水女子大学理学部物理学科卒業後に通信機器メーカーに就職され、その後現在に至るまでソフトウェア開発に携わっています。
理系進学を決めたのは高校生のときで、理系は就職に強いというのが大きな理由でした。就職先として通信分野を選んだのは、ご自身が不便な場所に住んでいたこともあり、いろいろなものが繋がる便利な時代をつくるであろう「インターネット」に憧れていたからだそうです。
八角様には、具体的にはイメージしづらいソフトウェア開発の流れについて詳しくお話しいただきました。またソフトウェア設計の例題を出していただき、中高生の参加者の皆さんと一緒に、どのようにしたらお客様のニーズを満たす最適な設計ができるかを考えました。中高生にとっては具体的な想像がつきにくいソフトウェア開発が、どのようにして行われているのかよく分かりました。お客様の要望に合わせて最適な案が変わるというお話もとても興味深いものでした。
最後に、仕事をする上で役に立つスキルとして、①人に説明するときに頭の中の考えやアイデアのイメージを絵や言葉・文章で人と共有すること、②わかりやすい文章を書くことが大切だと教えていただきました。「ソフトウェア」は形のないものだからこそ、チームや顧客と情報やアイデアを共有するために言葉で伝えることが重要なのだそうです。
また通信業界の今後の課題として、最先端の技術は進んでいるかもしれないが、まだまだ日本社会全体に取り入れられているわけではないので、社会全体で歩調を合わせて進んでいくにはもう少し時間がかかるということを挙げていただきました。

通信・生命科学という変化のはやい分野の最前線で働いているお二方のお話からは、理系進学後に多くの活躍の場があることを感じました。お二方が歩んでこられた多様なキャリアのお話は、理系進学に関心をもっている参加者の皆様にとって前向きな進路選択への大きな後押しとなったのではないでしょうか。


講演後の質疑応答では、参加者はマイクを通して自分の言葉で講演者に直接質問を投げかけました。進歩の早い通信技術や遺伝カウンセラーの仕事について、コロナ禍での業務についてなど、多くの質問が寄せられ、オンラインながら講演者と司会者・質問者との間で活発なやりとりが行われました。