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2023年2月12日(日)に「第2回女子中高生のためのイノベーションセミナー ―生活者の視点からイノベーションを―」を開催いたしました。今回は、オンラインと対面でのハイブリッド開催ということで、現地ならではの臨場感がありながらも、全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。総合司会は近藤るみ 先生(お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系・准教授、お茶の水女子大学 理系女性育成啓発研究所 研究員)が担当いたしました。

講演後のパネルディスカッションでは、ファシリテーターを加藤美砂子 先生(お茶の水女子大学 理系女性育成啓発研究所 所長)が務め、パネリストには斎藤悦子 先生(お茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所 教授)、相川京子 先生(お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系・教授、同附属中学校・校長)、吉田裕亮 先生(お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系・教授、同附属高等学校・校長)をお招きしました。

講演の部

斎藤 悦子 先生(お茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所)にご講演いただきました。

みなさんのお家の中では家事を誰がどのくらいしているでしょうか。調査によれば、中高生のこどものいる共働き夫妻の家事時間は、妻が夫の7倍であり、妻の家事時間の6割が食事に関する家事だそうです。斎藤先生は、そこから「どうして夫は料理に時間を使っていないのだろう?」と疑問に思い、夫婦の料理に関する動作研究を行うことによって、この問いを解明してみようと考えたそうです。斎藤先生は他大学などとの共同調査隊をつくり、日本で最も共働き世帯が多い福井県の子どものいる共働き夫妻20組を対象に、夫と妻それぞれの料理行動を動画に撮り、解析しました。その結果、妻は2つの料理を同時に作っていましたが、夫は料理を一つずつ作る傾向にありました。また、夫は妻に比べて「切る」、「むく」などの動作がゆっくりしていて、止まって考えているような時間が長かったそうです。

このような調査データをとることで夫婦の料理行動の差が明らかになり、どのようにすれば夫がより料理をしやすくなるだろうか?という「イノベーションの種」を見つけることができました。男女の性差には、生物学的な性差と社会・文化的な性差がありますが、料理行動の性差は、「男性は仕事時間が長くて料理をする時間がとれない」といったような社会的な要因と、「男性は仕事をして女性は家庭を守る」という考えのような文化的な要因から生まれているそうです。このような性差の中にあるイノベーションの種は、ジェンダード・イノベーションと呼ばれます。私たちが生活の中でなんとなく感じている疑問や課題も、今回の男女の料理行動の差のように数値化されることで、解決に必要なものを具体的に考えることができるのだと感じました。
斎藤先生は、現在料理ロボットなどのような夫が家事を共に担えるための解決策=イノベーションを考えているそうです。「研究」というと、私たちの生活とはかけ離れたもののように感じますが、中高生の参加者のみなさんも、私たち生活者の目線の中から見えてくる研究の種、イノベーションの種はまだまだ沢山あるのだと感じたのではないでしょうか。

パネルディスカッション

講演後のパネルディスカッションでは、パネリスト、ファシリテーター、参加者のみなさんでイノベーションや研究についての活発なやりとりが行われました。会場の参加者はマイクを通して直接質問をし、オンラインの参加者はチャット機能から質問を書いていただき、ハイブリッドならではの賑やかな交流になりました。ディスカッションの一部をご紹介します。 

  • 分野を問わずイノベーションを起こすことはできると思いますが、とくに理系のチカラを使うことによって、イノベーションにどのような広がりがあると考えられますか?(会場からの質問)

―理系分野の研究者の方と共同で調査を行う中で感じるのは、実際的で現実的な研究、社会実装につながる研究にする力の強さです。(斎藤先生)

―私は理系の専門分野の研究者ですが、イノベーションを生むためには、一つの分野だけに留まるのはよくないのではないかと考えています。いろんな分野を見てきた経験から、異なる専門分野であっても、実は同じような現象を研究していることがあると気づきました。文系・理系などと縦割り的に一つの分野に閉じこもるのではなく、同じ現象を違う専門性からみることで新しい発見があり、それが革新的なイノベーションにつながるのではないかと考えています。(吉田先生)

―吉田先生と同じく、私も共同研究などの経験から、理系同士であっても異なる専門分野の視点からみると、自分にはない考え方からの新しい発見があると実感しています。また、理系のチカラという観点で考えると、特に「モノ」として表現する力があると感じます。(相川先生)

  • 中高生にとっては、学際的な研究や課題を知る場が少ないというご意見がありましたが、そういう場を増やしていくにはどうしたら良いと思いますか?(オンラインからのご意見)

―例えば家庭科といった学校の授業の中で、今日お話ししたような、身近な生活の中にある学際的な課題を見出していく取組みをしてみると良いのではないでしょうか。(斎藤先生)

―私たち大学などの研究機関がより積極的に発信していく必要があると思います。学校の先生方にもこのようなイベントに参加していただいて、児童・生徒に伝えてもらえるようお手伝いいただければ、研究をより身近に感じてもらうことができるのではないでしょうか。(吉田先生)

―高校生だとコースとして文理が分かれていることも多いですが、中学生は科目としては分かれていても、文系も理系もまとめて学びます。だから実際は専門分野をはっきりともっている私たち大学の研究者よりも、文理が分かれていない視点の世界にいるのではないでしょうか。ですので、中高生のみなさんが自身の興味のままに調べてみたり研究をしてみると、意外と文理融合的な学際研究のテーマが見つかるのではないかとも思います。(相川先生)

 

斎藤先生の興味深いご講演と、パネリストの方々との活発なパネルディスカッションにより、研究をどのようにしてイノベーションに繋げていくのか、イノベーションを生み出すために生活者の視点がどのように活きてくるのかを深く考えることができました。理系進学に興味をもつ参加者のみなさんにとって、理系のチカラがイノベーションを生み、私たちの社会や生活を変えていくことができる可能性を感じる機会となったのではないでしょうか。