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2025年7月27日(日)に「中高生のための第6回グローバル講演会—サイエンスから世界へ—」をオンラインにて開催いたしました。東京近辺だけでなく、関西圏や中部地方、九州・四国地方など、様々な地域にお住まいの中高生の方々にご参加いただきました。今回の講演会では、研究者としてグローバルに活躍される方々をゲストにお招きし、ご自身の経験や現在のお仕事などに関するお話をしていただきました。モデレーターは、お茶の水女子大学理学部生物学科の植村知博教授が担当いたしました。植村教授は様々な国や地域の研究者の方々と交流し、共同研究を行なっております。

 


一つ目の講演は、磯野 江利香 様(コンスタンツ大学 生物学科 教授)による『ドイツの教育制度とドイツで働くということ -日本との比較-』です。

磯野様は日本で博士号を取得されたのちに、ポスドク(博士号取得後に大学や研究機関で任期付きの職に就いている研究者)から現在に至るまで20年以上ドイツで暮らしていらっしゃいます。研究では、植物がどのように環境の変化に適応するのかを分子レベルで解明されており、特に昨今の気温上昇、気候変動に植物がどのように対応しているのかをテーマとされています。
今回は教授として、ドイツの大学教育に携わる観点から、ドイツの教育について語っていただきました。ドイツでは教育は“権利”であるという意識が強く、大学の費用の大部分を国が負担しています。そのため、自国の学生は年間約5万円で大学に通うことができます。学部の時には、ほとんどの学生は自分の家から近い大学に通います。博士前期課程以降になると、自分の専門に合致した大学に通うそうです。

ドイツで仕事をするにあたってはワークライフバランスが重視されているそうです。実際に午後5時以降は会議をせず、週末にメールを書かないそうです。大学教員のうち女性の割合がまだ20%程度であるのが課題であり、改善のために採用する側の男女比を平等にするなどの対策が試みられているといいます。

次に、ポスドクから海外へと活動を移された磯野様の経験をもとにして、国際交流の際に心がけるべきことを教えていただきました。まず、留学など短期滞在では情報収集はもちろん、コミュニケーションのマナーや習慣を知っておくと誤解が少なくて良いといいます。また、より長期の滞在の場合には話す内容があることが特に重要なので、自身の分野の専門知識に加えて、日本や外国の歴史、文化も学んでおくと話が弾むそうです。とにかく、完璧を求めないこと、良い意味での開き直りが必要だとおっしゃっていました。

最後に、アルバート・アインシュタインの名言“A person who never made a mistake never tried anything new.”という名言を引用して、5年後、10年後にどうありたいかを考えて挑戦することが大切だと締めくくられました。

 


二つ目の講演は、TSANG Sin Yi 様(お茶の水女子大学 理学部 数学科 准教授)による『アメリカと日本の教育制度の違い、中国での暮らしとお仕事』です。

TSANG様は高校2年までは香港で暮らしていらっしゃいました。高校3年からは、親族が移住していたワシントン州へと移られ、ワシントン大学シアトル校を卒業されました。香港の学校では歴史などは中国語でしたが、ほとんどの授業は英語で行われることが多かったため、ワシントンに移ってからも授業の面では大変だと感じる場面は少なかった一方、日常会話でフランクに友人と話せるようになるまでには時間がかかったそうです。

ポスドクとして清華大学で2年間過ごされた後、中山大学でも2年間特別研究員をされていました。中国でのポスドクは授業を担当する必要がなく、研究に時間を取ることができたのが良かったそうです。また、風土として教えてもらうのを待つのではダメで、自ら行動しないといけないことも多く、心身面で鍛えられたといいます。そして、配偶者の転勤をきっかけに日本へと移住し、2021年からお茶の水女子大学で教鞭をとることになりました。

次に、アメリカの大学で学ばれた経験をもとに、日本の大学制度との違いを説明していただきました。まず、アメリカでは専攻を決める時期が大学によって異なります。入学前の願書での申請通りに所属が決まる大学もあれば、専攻の希望を未定のまま願書を出して入学後に専攻を決める大学もあるといいます。入学後に専攻が決まる場合には単位の取得状況や成績が大事だそうです。

卒業要件をめぐっては、日本ではゼミへの所属や卒業論文が必要とされる場合が多いですが、アメリカでは卒業要件として必ずしも必要ではなく、大学院への進学意欲があって研究の経験を積みたい人などが”Honors program”や“Research Experiences for Undergraduates”などのプログラムに参加して行うものだそうです。講演の後半ではアメリカの大学院では学部から所属先の大学を変更することが多いという事情や、学費免除や奨学金などの援助に関して、詳しく伺いました。

 


講演後の質疑応答では、参加者と講演者との積極的なコミュニケーションが図られました。
特に教育制度の違いに興味を抱いた方が多く、大学の奨学金制度やプログラムについての質問や、語学スキルをどう磨いたかについてなど、海外への進学を視野に入れた将来を意識されている中高生の方々からの質問が多く見られました。

この講演を通じて、中高生の方々の視野が広がったのではないでしょうか。講演中にも挙げられていた通り、自分の将来のために、失敗を恐れずに挑戦してみることが何よりも大切です。様々な経験を積んだ先人と触れ合い、話を聞くことで、新たな可能性に目をむける一助となったかと思われます。