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2025年8月2日(土)に「第5回 女子生徒の理系への進路選択支援を後押しするために」を開催いたしました。オンラインで開催し、全国各地から多くの方々にご参加いただきました。
今回は、理系に進むことで得られるコンピテンシー(資質・能力)や理系分野の女性を増やす意義について教員・保護者の方に知っていただくために2名の先生にご講演いただきました。


 

最初の講演は「問い直す文系、〇〇する理系 -育つ力で選ぶ進路-」をテーマに、秋山 久美子 先生(お茶の水女子大学 コンピテンシー育成開発研究所 特任助教)にお話しいただきました。秋山先生自身は文系ではあるものの、科学雑誌などに親しんできた、いわゆる“理系ファン”として進路選択に悩んだ経験や、娘の進路選択に立ち会った経験から語っていただきました。

大学進学に伴う文理選択は、職業選択にも結びついていくような、重要な選択です。しかし、現状としては、「女子は理系能力が低く、向いていない」などのネガティブイメージや、「理系選択をした女子は彼氏や結婚相手に困らなさそう」などのポジティブイメージ、それらの両方の言説の影響を受けている面も否定できません。実際、進学後にイメージとの乖離や、自身の分野への適性・興味関心への疑問、周囲と比較した劣等感などで悩むことも少なくないそうです。

そうしたミスマッチを防ぐためには、イメージにとらわれることなく、学びたい学問や就きたい職業について調べたり考えたりする必要があるといいます。今回は、その判断基準の一つとして、理系選択をコンピテンシー(資質・能力)の文脈で捉え直します。

まず、文系と理系の大きな違いとしては、企業への就職に限定した話で言えば、文系は“ジェネラリスト養成コース”であり、理系は“スペシャリスト養成コース”と区分することができます。文系の場合は授業で解釈力や批判的思考力を養成するのに加えて、課外活動などで幅広く学業以外の能力を身につける必要があります。一方で理系の授業では問題解決力(解き明かす力)と創造的思考力(つくり出す力)を養成し、大学での学びをそのまま大学院や就職後にも磨き続けて専門家として職を得ていくことになります。そのため、理系を選択する際には、長年に渡って理系能力を磨いて、それを専門として生きていくことを楽しめそうか、興味のある職業は文系と理系のどちらかを注意深く検討する必要があり、自分に合わないと思ったら方向転換を早めに行うことが重要だといいます。

また、長期的な視点に立つならば、理系を選んだとしても女性は出産・育児・介護に伴うキャリアチェンジの可能性が高く、論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション力、協動力、自己制御力、倫理的判断力などの能力を向上させることが必要だといいます。上記のうち、理系の専門科目では培うことができない能力を補うような学生生活を主体的に送ってほしいとおっしゃっていました。

 

次に「実践力と人間力を育てる教員養成の取組」というテーマで、久留戸 涼子 先生(常葉大学 教育学部 教授)にお話しいただきました。久留戸先生は常葉大学の学校教育課程理科専攻のご担当をされており、将来的に小学校で理科を教える教員となる学生を指導されています。

久留戸先生が勤められている常葉大学は静岡県内最大規模の総合大学です。教職大学院もあり、近隣他県から通学する学生もいるそうです。学校教育課程では、実践的なカリキュラムと豊富な教育実習を謳っており、初等教育課程の単科大学として開学したこともあって、小学校教員の養成が主目的となっています。

カリキュラムの特色として、1年次には「授業の達人」として評価の高い現役教員の授業を参観して「理想の教師像」について早くから考える機会を設けます。2年次には丸1日小学校に滞在して「教育観察実習」を行い、それに加えて特別支援学校や社会福祉施設での体験実習も行って、教員への心構えを学びます。3年次には小学校での「教育実習」、4年次には中学校と高等学校、特別支援学校の「教育実習」を行なうといいます。また、教育実習後には「教育実習体験報告会」が行われます。教員採用試験や教職に向けての支援プログラムが充実しており、「教員養成部会」というセミナーでは常葉大学の卒業生を招いて経験談を聞く機会があります。他にも、「教採特別指導」と称して対策講座や小論文指導・面接指導を行うなど、指導教員や教職支援センターが勉強や進路を強力にサポートしてくれる制度が整っています。

学外の活動でも地域と連携しており、地域の小学校や児童クラブでの「学習支援ボランティア」や浜松科学館、県内の小中学校で学生が実験等を企画して出前授業を行ったりしているといいます。久留戸先生のゼミでは登呂博物館との連携事業で、遺跡内の水田の水路で生き物観察会を行ったそうです。学生がサポートに回り、外来種などについて参加者に説明したといいます。

近年の動向として、「理科離れ」がしきりに新聞記事などで取り上げられています。こうした現象には教える側の責任というのがあり、子どもに興味を持たせ、わかりやすく説明できることが現場では求められています。そうした現状も踏まえて、今後も、現場で実際に力を発揮できる、そして子どもと共に成長していける教員の育成に尽力していきたいとおっしゃっていました。


 

講演後の総合討論では、「教員育成で実践力を身につけるために早いうちから実習をさせたことによる効果が示された事例はあるか」「学生が自身の資質、能力を自覚するにはどのような経験が必要なのか」などといった質問に、秋山先生、久留戸先生から具体的な返答を頂きました。