2025年9月28日(日)に、お茶の水女子大学にて「第4・5回 植物の細胞の中のダイナミックな世界を体感しよう」を開催いたしました。
講義(実験の目的)
講義の前半では、講師の伊藤瑛海先生(お茶の水女子大学特任研究員(学振RPD))から原形質流動についての説明と、実験の目的についての講義を受けました。中学校までの指導範囲では習わない原形質流動ですが、その速さは、「世界最速のスプリンターの速さに匹敵する」という情報を元に、本実験では、実際にオオカナダモの原形質流動を観察し、その速度を求めることでこれを検証することを目的としました。
講義(材料と方法)
講義の中では、観察に用いるオオカナダモが外来種であり環境への悪影響が懸念されている植物である一方で、細胞の観察に優れていることなどの説明がありました。また顕微鏡や実験器具(マイクロピペット)に関するレクチャーを行い、馴染みのないマイクロピペットに関してはアシスタントの補助のもと扱い方を学びました。
試料作成と顕微鏡による観察
アシスタントの補助のもと、観察に用いるプレパラートを作成しました。手順としては以下の通りです。①オオカナダモの葉をちぎる。②マイクロピペットを用いて50マイクロリットルの水を計り、プレパラートの中央に乗せる。③ピンセットを用いてオオカナダモの葉をプレパラートに乗せる。④カバーガラスをかける。
このようにして完成したプレパラートを用いて、原形質流動を観察しました。最初は10倍の対物レンズを用いて位置を合わせ、それから40倍の対物レンズを用いて細胞の内部を観察しました。このとき、中肋(ちゅうろく)と呼ばれる中央の部位の細胞小器官(葉緑体)の動き(原形質流動)に着目しました。




観察と計測
1目盛りの長さが分かっている接眼ミクロメーターを用いて、10目盛分の距離を、ひとつの葉緑体が移動する時間を測りました。このとき、ストップウォッチなどを用いて、1人につき測定を3回行いました。速度計算の公式を振り返り、葉緑体の移動速度(=原形質流動の速さ)を求めました。3回の測定から得られた速度の平均値を計算しました。
続いて、求めた原形質流動速度が、細胞小器官が北京、ロンドン、リオデジャネイロのオリンピック等の陸上競技で活躍した世界最速のスプリンターであるウサイン・ボルト選手と同じサイズ(195cm)だった時、どれぐらいの速度に相当するのかを求めました。比例計算を用いて、速度を(メートル/秒)に換算し、原形質流動速度が100メートルを何秒で移動する速度に相当するのかを計算しました。今回の実験では、ウサイン・ボルト選手と同程度の速さ(100mを8~9秒程度)になった方もいれば、人が走るくらいの速さ(100mを20~35秒程度)になる方もいました。


原形質流動の解説
最後に、原形質流動の仕組みについて学びました。原形質流動は、約200年前に見つかった現象であるにも関わらずその役割が解明されたのは近年であること、植物の原形質流動の速度は他の生物に比べて速いこと、速さを決める仕組みが分かりつつあること、細胞工学的な実験から、原形質流動が植物のサイズ決定に関わることが分かりつつあることを、大学の細胞生物学の教科書や、学術論文を参照しながら学びました。
考察と共焦点レーザー顕微鏡による観察
今回の実験で得られた結果について、「①仮説とどのくらい違っていたか②そのような結果になったのはなぜか③実験を通して新たに芽生えた疑問はあるか④それはどのようにすれば検証できるのか」という考察をふせんにまとめ、掲示することで他の参加者との意見の交換を促しました。
また最後に、原形質流動を駆動する上で重要な細胞内の繊維状構造(アクチン繊維)について、緑色蛍光蛋白質(GFP)を用いた細胞工学的な解析技術により共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察することで、細胞生物学の最新の研究にも使われるような技術を体験し、原形質流動の仕組みをより深く理解しました。
セミナー中、保護者の方には大学教員との懇談の時間が設けられ、自由な質疑応答が行われました。