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2023 年 5 月 21 日(日)に、「第3回女子中高生のためのイノベーションセミナー 閉鎖環境下での循環型アグリシステムの構築を目指して-生物学からイノベーションを-」を開催いたしました。今回も、前回と同じく対面とオンラインでのハイブリット開催で、現地ならではの臨場感がありながらも、全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。総合司会は伊藤瑛海先生(お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所 特任助教)が担当いたしました。

講演の部

武田 征士 様 (京都府立大学 生命環境科学研究科 准教授・未来食研究開発センター株式会社 取締役)にご講演いただきました。

武田様は幼少期の頃から身近な生物に興味関心を寄せており、その好奇心が研究者への道を切り開き、起業へと導きました。
武田様が学生時代にされていた研究のひとつに、花弁の形成における突然変異体の研究が挙げられます。ABCモデルに従って様々なホメオティック突然変異体が作られるという現象は、今や教科書に乗るほどに有名な話ですが、発見当時のそのニュースに感銘を受けた武田様は、生成段階の花弁について着目されました。シロイヌナズナの突然変異体fop-1は、野生型と比べて、花弁が曲がっているという表現型を有しています。これはアサガオの台咲と似た花弁の形態となるのですが、これらのメカニズムが共通しているということを、武田様は発見されました。どちらの花でも、野生型に備わっているはずの花弁表面の分泌腺毛が無いために、潤滑油状の物質が分泌されず、蕾の中で萼との間に摩擦が生じて、真っ直ぐな花弁が成長できないのだということが判明しました。こういったシステムを経て花が美しく咲くという生命の神秘に魅了されるとともに、この特性が合弁花でも離弁花でも一致することが示唆されました。

太陽光をうまく利用するのが植物であるならば、その植物を利用するのは昆虫です。寄生蜂や虫こぶなどが例に挙げられますが、不思議なことに、昆虫が植物に寄生することで、通常では成しえないプロセスを経て、葉から花形成が行われる様子が観察されています。現在、武田様はこの現象を利用した果実形成の迅速化を諮る研究も進められています。

では、植物と昆虫の双方の特性を利用すれば、人間は現状の課題を解決できるようになるのではないでしょうか。そう考えた武田様は、食生産システムの問題をアグリバイオの観点から解決すべく、近年新たに企業を立ち上げました。地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの一部は農業由来であり、水耕や酪農には膨大なコストと水が必要になります。しかし、広大な土地や資源に乏しい現代の日本では、食料自給率は低迷のまま。そういった問題を解決するための新しい発想が、環境循環型アグリです。中でも武田様は、これからの食料問題解決に昆虫食を推し進めています。イネや野菜を屋内で育て、その米糠などの残渣を餌にミールワーム(Tenebrio obscurus Fabricius)を飼育し、その虫の残渣を今度は植物肥料に活用する。このように、閉鎖環境下でも双方向に余すことなく資源を循環させるという、持続可能な社会の形成を計画されています。

植物の研究も昆虫食も、さほど珍しいものではないのですが、それを組み合わせ、ビジネスにまで突き進めたのは武田様ただ一人。何より斬新な発想の組み合わせが大事であると、武田様は語ります。そして、そのアクションを行う研究者は、最後まで諦めないことが重要であるとも仰っていました。今後の社会を形成する中高生の参加者の皆さんにとって、まさに金言となったことでしょう。

質疑応答

講演後の質疑応答の場では、対面会場からもオンラインチャットからも、多くの質問が寄せられました。今回は、その一部をご紹介いたします。

Q:虫こぶは植物にとってよくないことばかりなのでしょうか?(高校3年生)

A:虫こぶが極端に多いと、光合成阻害などで生育不良が起きますが、すぐに植物が枯れるようなことは滅多にありません。アブラムシのように、寄生した虫が分泌する蜜を植物が吸って養分にするという例も観察されています。一部、利害の一致が起こっていることも考えられます。

Q:ミールワーム以外でも食べられる虫はありますか?(会場から)

A:昆虫は100万種ほど存在しますが、殆ど食べられるのではないかと思います。しかし、人が飼育して利用価値があるもので考えるのであれば、生殖スピードが早く、飼育が簡単で、産業廃棄物を飼料に利用できる昆虫が理想でしょうね。サクラケムシのフンは、お茶に煎じると香高い桜茶になりおすすめです。

Q:ホメオティック突然変異はどのくらいの確率で起こるのでしょうか?(高校2年生)

A:自然に発生するのは非常に低い確率です。特にこういった変異は生殖に不利なため、自然選択で生き残るのもなかなか難しいでしょう。

Q:私は虫が苦手で、昆虫食に抵抗があります。消費者目線から考えて、ミールワームを食べる利点はありますか? (高校3年生)

A:ウシは飽和脂肪酸を含みますが、ミールワームは不飽和脂肪酸が多く、ミネラルも豊富で健康的です。しかし一方で、同じ節足動物であるエビ・カニアレルギーの人は食べられないのがデメリットです。昆虫食となると姿焼きや踊り食いを想像しがちですが、ミンチ状やパウダー状にして、徐々に嫌悪感を無くしていくのが今後の課題かと考えます。