2026年10月12日(月)に、第2回理工系模擬講義 大学の授業をのぞいてみよう!「建築の時間・生物学の時間」を開催しました。中高生を対象とした本イベントには、多くの生徒とその保護者の方々が参加しました。1時間目「建築の時間」を共創工学部人間環境工学科の藤山真美子准教授が、2時間目「生物学の時間」を理学部生物学科の近藤るみ准教授が担当しました。
1時間目「建築の時間」
1時間目の「建築の時間」では、「分野を超えて考える未来のまちや建築デザイン」という題で講義が行われました。都市・建築デザイン学を専門とする藤山先生は、オランダやシンガポールなどの海外事例と比較しながら、国土の文化背景や歴史的背景が都市・建築空間にどう影響しているかを研究されています。2011年の東日本大震災でコミュニティが一瞬にして崩壊していくのを目の当たりにしたことを機に、再生可能エネルギーの活用やエネルギーの見える化といった研究にも取り組まれています。
講義は、「私たちにとって『空間』とは何か?」という問いを主軸に、さまざまな「空間」のあり方について考えさせられる内容でした。普段私たちが日常で目にしている窓や扉、壁といった「触れられるもの」を図面に描き出しながら、設計士は常に「その場所に生じる空間と人々の営み」を頭の中で描いています。図面そのものは俯瞰的なものですが、出来上がった空間に足を踏み入れたとき、人は視覚や聴覚、嗅覚などの五感を通してその場を体験します。
その好例として挙げられたのが、ドイツのホロコースト記念館です。この施設では、広い敷地にベンチほどの高さから人の背丈を超えるものまで、無数のコンクリートの塊が並べられています。図面上では単にコンクリートが並んでいるだけに過ぎませんが、人が実際にその場に立つことで、互いに意見を語り合ったり歴史に思いを馳せたりする「場」へと変化します。
藤山先生は現在、学生や他分野の研究者とともに、火災の多さゆえ図面がほとんど残っていない江戸の歌舞伎小屋を解き明かす研究に取り組んでいます。芝居絵の分析とVR技術を用いて当時の空間を復元し、その「熱気」を追体験する試みです。また、かつての井戸端会議のように、必要な活動の中から自然な対話(任意活動)が生まれる空間デザインを目指し、池袋でのまちづくり活動にも携わっています。
「そこで過ごす人は、何を見て、何を感じ、どんな営みを広げていくのか」。そうした視点からデザインされた空間で私たちは日頃何気なく過ごしていますが、本講義はそこに改めて目を向ける貴重な機会となりました。
2時間目「生物学の時間」
2時間目の「生物学の時間」では、「味覚のナゾを探れ〜生き物は化学物質をどう感じる?〜」という題で講義が行われました。1時間目の建築の時間でも話題に上がった「五感」の中から味覚に焦点を当て、日々私たちが楽しんでいる「味」の秘密を、実際に体験しながら探りました。
講義の初めに、PTCという苦味物質を試食してもらい、苦味を感じた人と感じなかった人の集計を行いました。日本人の20%弱ほどがこのPTCの苦味を感じないと言われていますが、会場での集計結果も16%の人が苦味を感じないというものでした。「なぜ苦味を感じない人がいるのか?」という先生の問いかけにより、多くの参加者が自分事として周囲との意見交換が盛り上がりました。
この違いは、両親から受け継いだ遺伝子の組み合わせによるものです。PTCの苦味を感じる受容体の形が異なるため、「苦味を感じる」「感じない」「少しだけ感じる」という大きく分けて3パターンの反応に分かれます。
次に、味を伏せた状態で鼻をつまんで飴を舐め、味をどのように感じられるかを体験しました。参加者のほとんど全員が、鼻をつまんだ状態では何味かがわからず、甘さだけを感じている様子でした。実は、味の詳細(フレーバー)は嗅覚のはたらきによって認識されています。ヒトには約400種類の嗅覚受容体があり、その組み合わせでさまざまな香りや味を感じ取っているのです。生命科学は、まさにこうした仕組みを解明していく分野です。
最後に、近藤先生の研究室で実験対象とされているショウジョウバエが紹介されました。ハエもヒトと同様に環境中の化学物質を感知し、摂食や産卵といった行動を選択しています。世界中に生息するハエの近縁種どうしでさまざまな濃度の糖を与えた際、濃いほどよく食べ産卵する系統もいれば、濃度に関係なく行動する系統も存在します。こうした行動の違いが「どのように環境の変化に適応した結果なのか」「多様な生物が生まれる仕組みとは何か」を明らかにするため、先生は研究を進めています。
「この生き物は何を感じて、どうしてこの行動をしているのだろう?」という問いを常に持ちながら、生き物と向き合う姿勢が印象的な講義となりました。
懇談会
講義の後には、ご登壇いただいた藤山先生、近藤先生と参加者による懇談会が行われました。
先生方と生徒・保護者の距離がとても近く、講義内では聞ききれなかった質問や、より深い議論を交わすことができました。また、先生方がご自身の進路を選んだ際のエピソードなど、将来を模索する生徒に向けてあたたかいアドバイスもいただきました。
在学中の多くの学生が目標を持って将来への道を進んでいく中で、学生たちの自己実現のための活動について先生方の視点からわかりやすくお伝えいただきました。また、教育や成長においては、「できるだけ多様な経験をする」ことが大切であるというお話もありました。自分自身で進路を決めるきっかけとして、失敗も含めた幅広い経験の積み重ねが重要であり、自分では経験し得ないことは、読書や人との会話、想像を通じた「仮想体験」も欠かせません。
参加した生徒の皆さんが、自分の進みたい道を見つけ歩んでいけるようにという応援メッセージが詰まった、あたたかい思いのこもった会となりました。

