0

2021年7月18日(日)にオンラインにて女子中高生のための第1回グローバル講演会を開催いたしました。今回も引き続きオンラインでの開催ということで、全国各地の方々にご参加いただきました。
今回は海外で教育を受け、現在は第一線の研究者としてご活躍されている二人の先生にご講演いただきました。モデレーターは、ご自身もイギリスに留学し研究を行っていた経験のある、お茶の水女子大学理学部生物学科の佐藤敦子准教授が担当いたしました。


最初の講演は、伊藤 瑛海 先生(お茶の水女子大学 ヒューマンライフイノベーション研究所 特任助教)「私が理系研究者を目指すようになったきっかけ~南アフリカ共和国での学校生活を経て~」というテーマでお話しいただきました。伊藤先生は中学2年生からの5年間、アフリカ大陸の最南端にある南アフリカ共和国で過ごされました。多人種国家である南アフリカ共和国での学生生活は、様々なバックグラウンドをもつ多様な学友と交流する日々だったそうです。講演の中では、学校主催の”Social”というパーティの様子や、友人とくつろぐ昼休みの様子などを写したたくさんの写真を見せていただきました。気候や生活スタイル、時間割など日本とは異なる部分がある一方で、学校行事のキャンプでの楽しそうな様子や昼休みに何気ない雑談をしていたというエピソードなど、日本の高校生と変わらない部分もたくさんあるのだなと感じました。
伊藤先生は現在、植物が細胞の中に栄養やタンパク質を貯める仕組みについての研究をされていますが、研究者を目指すきっかけとなったのは高校で生物学を教えてくれていた先生が繰り返し言っていた”Every Structure has a FUNCTION.” =生命の構造はすべて何かしらの意味をもつ、という言葉だったそうです。この言葉から「生物がもつさまざまな構造がそれぞれどんな意味を持つのか」と考えるようになり、それがとても楽しいと感じたそうです。国際的な共同研究を行う上でも南アフリカでの経験は役立っているそうで、まずコミュニケーションのためのツールとして英語を使う目的ができたため自然と語学力がついたこと、そして言葉や文化が違っても大切なのは「個人と個人」の関係性ということを実感として学んだことが大きいそうです。『日本でもグローバルな環境でも「人と人との関係性」を大切にして、目的をもつことで自然と語学力は身につきます』というお言葉は、海外に関心を持ちつつも一歩踏み出せない理系進学に関心のある参加者にとても響いたのではないでしょうか。


次の講演は、Julien Tripette先生(お茶の水女子大学 文理融合AIデータサイエンスセンター 准教授)「幼稚園・保育園から大学まで:フランスとケベックの教育制度の概要」というテーマでお話しいただきました。Julien先生は出身地のであるフランスでの大学・大学院はフランスでスポーツ科学を学ばれ、その後カナダをはじめとした世界各地で研究活動を行ってきました。日本に来た当初の研究ではWii FitやWii Sports実施時の活動強度を調査していたそうです。世界各地の教育機関・研究機関を渡り歩いてきたJulien先生からは、フランスやカナダのケベックでの教育制度について詳しくお話しいただきました。日本より義務教育の開始年齢が早かったり、中学校や高校の年数が違うなど、日本とは異なる教育システムのお話は大変興味深いものでした。高校卒業・大学入学のシステムも日本とは異なり、フランスでは高校卒業時にバカロレアという国家試験を受けて高等学校教育の修了を認証してもらう代わりに大学の入学試験がないとのことでした。
また、フランスでは選択問題や決まった答えを回答することが求められる問題ではなく、自分の意見を論理的に述べることが求められるopen-questionが重視され、学校の授業の中でも議論や記述の仕方を学ぶというお話が印象的でした。実はOECDの学習到達度調査(PISA)ではフランスの順位は少し低いのですが、その理由はPISAの質問形式は選択問題などが多く、open-questionを重視するフランスの試験の形式とは異なるからではないか、というお話もありました。日本と世界の教育を比較することで、それぞれの特色や強みが浮き彫りになり、各国の教育について理解を深めることができました。最後にJulien先生からは、グローバルな視点を養いたい参加者へ向けて「フランスの大学で少しでも学びたい人がいたら、いつでも相談してください」という温かいメッセージをいただきました。


講演後の質疑応答では、参加者はマイクを通して自分の言葉で講演者に直接質問を投げかけました。海外の教育制度や生活に関する質問や語学習得に関する質問が多く寄せられ、モデレーターの佐藤先生を交えて講演者と質問者との間で活発なやり取りが行われました。
世界のさまざまな教育制度を知ることができ、海外での学生生活の想像が全くついていなかった理系進学に関心のある参加者も、海外での学生生活を選択肢の一つとして具体的にイメージできるような機会になったのではないでしょうか。