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2022年8月6日(土)の午前に第1回、午後に第2回として「陸の植物観察会」を開催いたしました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策を十分にとった上で、女子中学生の方にご参加いただきました。

講義は岩崎貴也講師(お茶の水女子大学理学部生物学科講師)が担当いたしました。アシスタントは、お茶の水女子大学理学部生物学科の大学生が務めました。

講義とフィールドワーク

最初に岩崎先生から、生物多様性と種の概念、そして植物の種の見分け方についての講義を受けました。

 

講義の後、参加者は4つのグループに分かれ、理学部1号館周辺で植物の採集を行いました。

 

採集した植物は実験室に持ち帰り、図鑑やルーペを用いて葉の形やつき方を観察し、種の名前を調べました。植物の形を見分けるポイントを学んでから観察することで、これまで「緑の葉っぱ」としてしか区別できていなかった身近な植物に、大きな多様性があることを学びました。

花の進化

次に、花の進化に関する講義を受け、原始的な被子植物の系統の一つであるホオノキの花などを参考にABCモデル(3クラスの遺伝子の組み合わせによって、花弁や雄しべなどの花のパーツの配置が同心円状に決まるというモデル)を学びました。参加者は、構内で咲いていたサルスベリやノリウツギ、ムクゲなどの花の構造について、ルーペも使いながら実際に観察・スケッチしました。また、観察した花について、花の構造を同心円状に示す花式図も作ることで、ABCモデルとの関係について理解を深めることができました。

都市環境に対する適応進化

最後に、岩崎先生から進化に関する講義を受け、生物が進化するメカニズムについて学びました。
進化を引き起こす要因の一つに「適応」があります。適応とは周囲の環境に生存と繁殖が有利になる性質をもつことを指し、適応した性質は集団内に広がって進化を引き起こします。ここ数十年で環境は大きく変化しました。特に、ビルや舗装路に代表される都市環境は、それまでの農地環境と土壌や植物密度などで大きく異なっています。都市部でも一般的に見られるメヒシバという植物は、その都市環境に適応し、農地環境とは異なる進化を遂げたことが近年の研究によって報告されています(Fukano et al. 2020)。
参考: 足元で起きている進化: 都市と農地における雑草の急速な適応進化と防除への影響 https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200820-1.html

そこで今回はこのメヒシバに着目し、事前に農地環境から採集しておいた農地型のメヒシバと、キャンパス内から自分で採集した都市型のメヒシバを比較し、どのような違いがあるかをグループで調べました。さらに、その違いはどのような環境の違いに適応したものなのか、そしてその適応を検証するためにはどのような実験を行えばいいかについても、グループでディスカッションしました。

 

最後に各グループから、草丈や葉の長さ、茎の数、根の広がり方など、多くのかたちの違いについての発表がありました。さらに、そのかたちの違いに関わる適応の実態についてはもちろん、それを検証する実験についても、生態学の研究で実際に行われている共通圃場実験(同じ環境で育てて違いを調べる)や相互移植実験(都市と農地、それぞれのタイプを相手の環境で育てて違いを調べる)など、実際の大学での研究にも繋がる多くのハイレベルな意見が出ました。

 


 

3時間の短い実習でしたが、実際にフィールドに出て植物を採集して観察する、観察結果から進化の仮説を立てる、さらにその検証のための実験を考えるなど、生物学を探求する上で重要なプロセスを体験することができました。参加者たちは意欲的に取り組み、同じグループのメンバーと協力して採集や観察、そしてディスカッションを熱心にしていました。身近な植物について深く調べることで、植物の多様性から生態・進化を考える良い機会になりました。