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2022年8月7日(日)に「第2回 女子生徒の理系への進路選択支援を後押しするために」を開催いたしました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえてオンラインでの開催となり、全国各地から多くの方々にご参加いただきました。
今回は、女子学生の理系への進学のために学校現場ではどのような支援がなされているか教員や保護者の皆様に知っていただくため、中学・高校・大学で教員をされている3人の方々にご講演いただきました。また、その後の総合討論では、3人の講師の皆様から、現在の学校教育の課題についてのお話や、参加者からの質問への回答・助言をいただきました。

 


最初の講演は、「中学校の現場から」をテーマに、薗部幸枝先生(お茶の水女子大学附属中学校教諭)にお話しいただきました。薗部先生は、教育者として「生徒が興味を持ったものを大切にする教育をしたい」と日頃から考えていらっしゃいます。以前、教育実習生を対象に「なぜ理系に進もうと思ったのか」調査したところ、その多くは「興味」だったそうです。お茶中では、教科書中心の学習だけでなく、科学的探究力の育成・興味関心の醸成・確かな学力を大切にした授業を展開していて、例えば、探究の授業では課題発見から考察までの流れやレポートの書き方など研究に必要なスキルを教えて興味のある分野について探究させたり、科学の事象を劇にしてみたり、元素をかるたにして遊びながら学んだりなど、既存の枠にはまらない授業内容がとても印象的でした。また、そういった授業では、学校教員だけではなく、その分野を専門とする方々(大学教授や研究所の研究者など)からも支援を受け、より高度な内容の学習に繋げているそうです。「女子・男子、文系・理系関係なく、自分の進みたい進路に進めるように支える場所が中学校」と冒頭にお話しされていました。大事な時期だからこそ、理系分野の魅力を最大限に伝えるために、日々工夫を重ねられているとのことでした。

次の講演は、溝口恵先生(お茶の水女子大学附属高等学校副校長)「高校の現場から」というテーマでお話しいただきました。お茶の水女子大学附属高校(以下、お茶高)は、国立大学附属高校の中で唯一の女子高校で、2019年度にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)という、理系学習を支援する学校に指定されました。SSH指定前から高大連携の授業や理科分野に特化した指導などを積極的に行っていたそうですが、理系分野に対する苦手意識などが原因で、理系分野の学習意欲が低くなっていることが課題だったそうです。そこで、SSHの特色を活かした学習体制に変え、探究活動を重視するようになったといいます。高校の3年間を通して、科学的な思考力の向上のみならず、プレゼンテーション能力の向上にも力を入れているとのことでした。
さらに、進学先のデータや興味のある分野のデータをSSHの指定前後で比較すると、SSH指定後の方が理系に進みたいと考える生徒が増加傾向にあるという非常に興味深い結果もご提示いただきました。また、女子学生が理系に進学するにあたり、「家庭・教師・社会が作り上げたバイアスからの解放」「自己評価を高める」「保護者の理解と応援」といった支援が必要だというお話はとても印象的でした。

講演の最後は、浜崎浩子先生(北里大学一般教育部教授)「生命科学系大学の初年次教育の現場から」というテーマでお話しいただきました。「“生命科学”のスペシャリストの養成」を掲げる北里大学では、医師や看護師、薬剤師など各種理系資格の取得が可能です。とくに女子学生の場合、将来就きたい仕事の資格が取れる学科に集まる傾向がある一方で、研究重視の学科には女子が集まりづらいということが分かってきたそうです。こうした中、主に一般教養やコミュニケーション能力を育てる教育を受ける1年生に対し、浜崎先生が所属する一般教育部の先生方は各自の専門分野を広く教えるような教育もしていらっしゃいます。浜崎先生が担当する生物学実験では、男子学生よりも女子学生の方が積極的であることが多く、男女混合班では女子がリードする傾向があるそうですが、コロナ禍の実験では学生の積極性がなくなってきているとのことでした。また、高校で学んでいない分野を学ぶというカリキュラムも用意されていたり、学習サポートセンター(ASC)で授業の質問に答える場を設けていたり、学生を取り残さない工夫もされています。授業への取り組み・学び方に関する学生対象の意識調査からは、まじめに授業は受けるものの、受け身である場合が多く、専門的な分野を効率的に学びたいという学生が多いということが分かりました。浜崎先生としては、より広く学んでほしいという想いがあるため、今後の課題として考えていくとのことでした。

今回、女子生徒の理系進学についてお話しいただきましたが、「女子だから」「理系だから」といった枠にとらわれずに自分の進みたい道を進めるようにサポートしていくべきだという想いを強く感じました。参加していただいた教員・保護者の皆様の中にも、身近に理系を目指す女子学生がいるという方は多かったと思います。今回の講演を、参加者の皆様が女子学生へのサポートの形を見出す一つのヒントにしていただければ幸いです。

 


講演後の総合討論では、ご講演者の皆様に加え、加藤美砂子先生(お茶の水女子大学 理系女性育成啓発研究所 所長)も参加され、講演内容に関するより詳細な情報や、参加者からの質問に対するアドバイスをいただきました。大学の充実した学びにつながるための中高での学習についてや、理系についてほとんど知らない大人から理系を目指す生徒に向けてできる支援の形などについて話し合い、今回のテーマである「女子生徒の理系への進路選択支援」についてより深く知ることのできる時間となりました。