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2022年10月2日(日)に「陸の植物観察会」を開催いたしました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策を十分にとった上で、女子中学生・女子高校生の方にご参加いただきました。

講義は岩崎貴也講師(お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系講師)が担当し、アシスタントとしてお茶の水女子大学理学部生物学科の大学生3名が参加しました。

講義とフィールドワーク

最初に岩崎先生から生物多様性と種の概念、そして種の見分け方についての講義を受けました。匂いが種の識別の参考になるレモン、サンショウ、クロモジ、クスノキについては、匂いを実際に嗅ぎ、それぞれで匂いが違うことを体感しました。

 

講義ののち、参加者はグループに分かれ、理学部1号館~グラウンド周辺で植物の採集を行いました。

 

採集した植物は実験室に持ち帰り、図鑑やルーペを使いながら、葉の形やつき方、毛などを観察して種同定を行いました。植物の形を見分けるポイントを学んでから観察することで、これまで「葉っぱ」としてしか区別できていなかった身近な植物に、大きな多様性があることを学びました。

 

カキノキやヤブツバキ、カラタチ、カジノキなどの果実のついた木の枝を中心に採集し、果実や種子の内部構造の観察を行ったグループもありました。


花の構造と進化

次に、花の構造についての講義を聞きました。原始的な形をもつホオノキの花や、シロイヌナズナの変異型の花の形を参考に、花は葉が分化してできたものであることやABCモデル(3グループの遺伝子の発現の組み合わせによって、花弁や雄しべなど、花のパーツの配置が同心円状に決まる)を学びました。

 

その後、実体顕微鏡を使いながら、採集したキンモクセイやアツバキミガヨラン、フヨウなどの花を分解・観察して花式図を描き、実際にABCモデルが成り立っていることを理解しました。アツバキミガヨランの雌しべの断面を観察し、1本に見える雌しべが実は3つの心皮が癒合してできていること、がく片・花弁・雄しべ・雌しべの数が全て3の倍数になっていることも確認しました。また、ルーペや顕微鏡にスマートフォンを合わせることで、植物の構造が分かりやすい綺麗な写真の撮影にも取り組んでいました。


都市環境に対する適応進化

最後に、岩崎先生から進化に関する講義を受け、生物が進化するメカニズムについて学びました。

進化とは、生物集団の単位で起こり、遺伝的な変化を伴う(次世代に変化が受け継がれる)ものを指します。この進化を引き起こす要因の一つには「適応」があります。適応とは周囲の環境に生存と繁殖が有利になる性質をもつことを指し、適応した形質は集団内に広がって進化を引き起こします。ここ数十年で環境は大きく変化しました。特にビルや舗装路に代表される都市環境は、それまでの農地環境と土壌や植物密度などで大きく異なっています。都市部でも一般的に見られるメヒシバですが、都市環境に適応し、農地環境とは異なる進化をしていることが、近年の研究で報告されています(Fukano et al. 2020)。

参考: 足元で起きている進化: 都市と農地における雑草の急速な適応進化と防除への影響 https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200820-1.html

写真はお茶大内で採集した都市型のメヒシバ(右・印なし)と、事前に郊外で採集した農地型のメヒシバ(左・黄色ラベル)です。様々な形態の違いがみられます。

この2タイプのメヒシバを比較し、形態にどんな違いがあるか、各環境にどう適応しどんな進化を遂げたのか、またその仮説を検証するためにはどのような実験をすればいいかをグループでディスカッションしました。

 

最後に、草丈や葉の長さ、茎の太さなど、多くの形態の違いについての発表がありました。根の広がり方や花序の違いといったユニークな違いに着目した意見もありました。さらに、その違いに関わる適応の実態についてはもちろん、それを検証する実験についても、共通圃場実験(同じ環境で育てて違いを調べる)や相互移植実験(都市と農地、それぞれのタイプを相手の環境で育てて違いを調べる)など、実際に大学での生態学の研究にも繋がる多くの意見が出ました。

 

短い時間でしたが、フィールドに出て実際に葉や花、果実を観察したり、顕微鏡やルーペを用いて花の構造を観察したり、ディスカッションして仮説を立てたりと、たくさんのことを学ぶことができました。生徒たちは意欲的に取り組み、同じグループの方と協力して採集、観察し、興味深い仮説を立てていました。観察を通じて身近にある進化を実感することで、植物・生物全般への興味が高まる一日になったようです。