2023年7月23日(日)にオンラインにて「女子中高生のための第4回グローバル講演会 —サイエンスから世界へ—」を開催いたしました。前回と同様、海外からご講演いただくためにオンラインで開催し、多くの方々にご参加いただきました。今回は幼少期や高校時代を海外で過ごした経験をもち、現在は大学の研究者としてご活躍されている二人の先生にご講演いただきました。モデレーターは、世界中の研究者と共同研究をされている、お茶の水女子大学理学部生物学科の植村知博教授が担当いたしました。
初めの講演では、「ドイツの教育制度とドイツで働くということ ―日本との比較―」というテーマで、
磯野 江利香 先生(コンスタンツ大学生物学科 教授)にお話ししていただきました。
磯野先生は6歳までをドイツで過ごした後、博士号取得までを日本で過ごし、現在はドイツで研究をされています。植物の環境変化への適応について研究されており、初めに植物学の研究について説明してくださいました。植物学の研究の目的の1つには食料供給の安定化があると話されており、現在食べられている野菜などの植物は品種改良の結果得られたものであることをキャベツやバナナ、トウモロコシを例に分かりやすく説明していただきました。また、遺伝子組換え技術とゲノム編集の違いについても簡単に説明してくださいました。
次にドイツの教育制度についてお話ししてくださいました。日本とは違い、ドイツでは小学校で4年間学び、その後大学進学を希望する人は8年制の学校に、専門技能の高い学校への進学を希望する人は6年制の学校に進学する、という制度だそうです。つまり、ドイツでは4年制小学校が終了する10歳の時点で大学進学の有無などを決めなければいけない、と話されていました。大学については日本やアメリカと違い大学間の格差が小さくて学費も安く、入学試験がほとんどの大学で行われないことから広き門だとおっしゃっていました。一方で大学における女性教員の増加については日本と同様に課題点であり、現在様々な取り組みをされているようです。
最後に先生が博士号取得後、ドイツに戻った時の経験から、国際交流は様々な分野で必要であり、語学力や専門知識だけでなく、自国、相手国の歴史や文化、習慣についても知っておくとよいことなどをアドバイスしてくださいました。また、5年後、10年後にどうありたいかを考え、いろいろな人との出会いや縁を大切にしてほしいというメッセージをいただきました。
次の講演では伊藤 瑛海 先生(お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所 特任助教)に「私が理系研究者を目指すようになったきっかけ ~南アフリカ共和国での学校生活を経て~」というテーマでお話ししていただきました。
伊藤先生は中学・高校時代を南アフリカ共和国で過ごされ、東京の大学で博士号を取得されました。現在はお茶の水女子大学で、トマトやアブラナ科の植物を用いた液胞への物質の貯蓄を制御するタンパク質について、研究されています。講演では主に南アフリカ共和国の学校制度、伊藤先生が理系を選んだ理由、中高生へのメッセージの3点についてお話ししていただきました。
南アフリカ共和国では小学校が8年間(grade0~7)、高校5年間(grade8~12)で、日本と違って年度は1月から始まり、小学校を含めほとんどが共学ではないそうです。また、最高学年(grade12)は「Matric」とも呼ばれ、最後の1年だけ特別な扱いを受けられるといった制度もあるそうです。その他にも教科書は学年が終わるときに回収され、次の学年の生徒が再利用するなど、日本とは違う点が多くありました。
伊藤先生が理系の生物学に興味をもったのは高校生の時で、その時の生物の先生の話が面白かったからだそうです。そして伊藤先生は高校卒業後、日本に戻って大学に進学されましたが、お話によると、先生の同級生には南アフリカ共和国の大学に進学する方やイギリスの大学に進まれた方など、大学進学という選択肢だけでなく、一旦仕事に就きながら自分の進路を考える方も多かったそうです。
最後に、今の社会では世界中の人々と価値を共有しながら共通課題を解決していく姿勢が求められており、自分の考えなど、自分のことについてよく知っている必要があるため、中高生の方には今と異なる環境に身を置き、積極的に様々なことに挑戦してほしい、というメッセージをいただきました。
講演後の質疑応答では、海外の大学とその後の就職事情や隣国の大学との交流についての質問が寄せられました。また、講演内容に対する感想を送ってくださった中高生の方もいらっしゃいました。
世界のさまざまな教育制度を知ることができ、元々理系進学に興味のあった参加者もそうでなかった参加者も理系進学をすることや、学びの場の選択肢を広げてみようと考えるきっかけになったのではないでしょうか。