2024年8月3日(土)に「陸の植物観察会」を開催しました。
講師は岩崎貴也先生(お茶の水女子大学理学部生物学科講師)が担当し、アシスタントはお茶の水女子大学の大学院生2人と学部生2人が務めました。
今回の観察会では、大学構内の植物を実際に採集して種を判別するだけでなく、植物の特徴の中でも「匂い」に注目して種の特定に挑戦しました。さらに大学の実験器具を使って、採集した植物から遺伝物質であるDNAを抽出する分子生物学実験も体験しました。
構内での植物採集と種の特定
まず、講師の岩崎先生から種を見分けるポイントについての講義を受けました。種を見分けることは植物を学ぶ第一歩になります。同じように見える葉っぱであっても異なっていたり、逆に全く違うように見えてもすべて同じ種であったりすることがあります。植物の種類を特定するには、葉の“かたち”(単葉・複葉の識別、葉の形状、葉の付き方など)をしっかり観察することが重要です。
講義の後は実際に大学構内を歩き、参加者が気になった植物を採集しました。実験室に戻ったあとは、講義で学んだ見分けるポイントと図鑑を照らし合わせながら持ち帰った植物の正体を特定していきます。最後には、多くの参加者が複数の植物種の名前を判別することができていました。
植物の「匂いソムリエ」を目指して
次に、植物の匂いについての講義を受けました。植物の匂いの元は、動くことのできない植物がその場で生き延びるために作り出した様々な二次代謝産物です。植物は二次代謝産物を利用して捕食者から身を守ったり送粉してくれる昆虫を呼び寄せたりしており、植物のQuality of Lifeを上げるために重要な物質です。お茶やバニラ、コーヒーなど、様々な植物が作り出してくれた二次代謝産物が、私たちの日常生活のQuality of Lifeも高めてくれていることを学びました。
講義の後は、お茶大構内に植栽されており、我々の生活でもよく利用されているレモン、サンショウ、クロモジ、ゲッケイジュ、クスノキの5種の枝と、それらを元に作られたエッセンシャルオイルやハーブティー、スパイス、防虫剤などの製品の匂いを比較し、対応関係を当てるクイズに挑戦しました。製品として加工される過程で匂いも少し変化してしまうため、匂いだけで種を絞りこむのは難易度が少し高かったようですが、多くの参加者は複数の種を特定でき、植物種間での匂いのわずかな違いに気づくことができたようです。
植物からDNAを取り出す
最後に、分子生物学実験のポイントや植物の細胞からDNAを取り出す方法についての講義を受けながら、実際に採集してきた植物からDNAを取り出す実験を行いました。分子生物学実験ではただ単に手を動かすだけでなく、各ステップでどのような反応が起きているのかを想像しながら行うことが大切です。参加者は要所要所で説明を聞きながら実験を進めることで、目の前の小さなチューブのなかで何が起きているのかを理解しながら実験を進めていました。
実験では、最初に液体窒素とビーズ破砕機を用いて、葉の組織を粉々にしました。次に、界面活性剤の1種である専用の溶液を使って細胞膜や核膜のような膜構造を壊すことで、細胞の内部にあるDNAやタンパク質などの物質を溶液中に取り出しました。さらに、DNA以外の不純物を取り除く工程を経たあと、DNAを含む沈殿を水に溶かしました。最後には、DNAが存在するときのみ蛍光を発生させる試薬を用いて、DNAを取り出すことができたのかを確認しました。多くの参加者がDNAの抽出に成功しており、その達成感に喜びの声があがっていました。
また、実験の前には少量の溶液を吸い取ることのできるマイクロピペットの使い方を学びました。最初は初めて触れる実験器具に難しさを感じたようですが、実験で用いる中でうまく扱うことができていました。さらに、葉を細かくする破砕機や、高速で回転して沈殿させる遠心分離機、溶液をまんべんなく混ぜることができるボルテックスミキサーなど、様々な大学の実験器具を使用することで、理系の実験の雰囲気を楽しく体感することができたようです。
今回の陸の植物観察会では、植物を見分けるポイントを見きわめるだけでなく、植物の「匂い」に着目して種の特定に挑戦しました。また、植物のDNAを取り出す実験に取り組み、大学で行われている理系の実験を体験することができました。五感を使った植物の観察や、生命の設計図であるDNAを取り出す実験を通して、生物の興味深さを感じられた方も多かったのではないでしょうか。