2024年11月17日(日) に 「第5回女子中高生のためのVR体験セミナー」 を開催いたしました。オンライン開催ということで全国各地の女子中高生の方にご参加いただきました。前回の開催と同様、女子中高生の皆さんにVR空間を体験していただきながら、化学の最新技術、理系に進学した女子大学生の日常を紹介しました。
参加者は事前に送付したマニュアルにしたがってVR専用のSNS 「cluster」をインストールし、お茶の水女子大学の講堂「徽音堂」を模したVR空間で自分のアバターを操作して参加しました。実際に講堂での講演のように登壇者は壇上に上がり、壇上の両側のスクリーンに映像やスライド、コメントを映し出しました。参加者はアバターで徽音堂の中や周囲を歩き回り、リアクションをしてVR空間や講演を楽しみました。セミナーの最後には、参加者全員で徽音堂から屋外に出て、実際のお茶の水女子大学の雰囲気をより身近に感じていただきました。
開会挨拶は加藤美砂子教授(お茶の水女子大学 理系女性育成啓発 研究所 所長)が務め、司会は伊藤貴之教授 (お茶の水女子大学 基幹研究院 教授、文理融合AI・データサイエンスセンター長)が担当いたしました。
基調講演
講演は、矢島知子先生(お茶の水女子大学 理学部 化学科教授)に「化学が支える未来」というテーマでお話しいただきました。矢島先生はフッ素を有する有機化合物を専門に研究をされています。そこで今回は、半導体チップを作製するときにどのような化学反応を用いているのか、ということをお話しいただきました。
半導体チップは現在の私たちの生活において欠かすことのできない存在です。これを作るためには多くの化学反応を用いており、今もなお、より高性能な半導体を生産するために、利用できる物質が研究されています。フッ素化合物は半導体を作る過程で、シリコン基盤に回路を書き込み、それを光に反応させて固定させる、という形で用います。フッ素化合物の反応は半導体だけでなく、他にも医農薬品、機能性材料などでも活用されています。
しかし、フッ素を含む化合物は自然界に数種しかなく、人工的に生産しなければなりません。先生の研究室ではフッ素の合成法の開発や有用な新規化合物を生み出す研究をされています。
半導体をはじめとして、激しい化学反応を用いて生産する部品などは、その反応に耐えて、役割を果たせることが重要です。その耐久性が足りないことで起こった有名な事故としてはチャレンジャー号爆発事件があります。この事件はOリングという部品が気温低下により弾性を喪失して、役割を果たせずに燃料もれをしてしまったことに起因します。この事例からも分かるとおり、どんな化合物にどんな性質があり、どのように利用できるのか研究を進め、化学反応をはじめとした大きな環境変化に耐えられるだけの素材を開発することには大きな意義があるのです。
講演を通して、私たちの便利な生活は、技術を積み重ねて作られた部品の上に成立しているということを実感することができました。
理系進学に関する現役学生との座談会
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 理学専攻 化学・生物化学領域の学生2人と理系進学に関する座談会を行いました。参加者はclusterのコメント欄から質問を投稿して交流をしました.座談会の一部を紹介します。
- 理系進学を志した動機は何ですか?
―高校の教科で生物が楽しかったので、化学か生物か迷っていました。北海道出身なので地元の大学へ研究室見学に行った時に、化学の研究室の方が面白そうだと思って、化学科に進むことにしました。
―昔から化学式が面白いと感じていて、化学式でいろんな物質を表現することに魅力を感じていました。高校1年生で文理を選択するのですが、その時には化学科に行こうと決めていました。 - 高校時代の理系の勉強で大変だった点は何かありましたか?
―特に数学が大変で、高校3年生の時には数Ⅲが全然できませんでした。また、物理も入試科目で使わなくとも大学入学後には必要な知識で、高校2年生からしばらく触れていなかったので、その復習が大変でした。
―高校1年生の時には化学と生物を選択していましたが、物理をやらないままでは残念だと思って、途中で選択を変えました。途中から変えたために周りの同級生よりも遅れをとっている状態だったので、追いつくのが大変でした。また、意外と苦手な科目で苦戦しました。 - 進学先に化学を選んだ動機はなんでしたか?
―せっかく大学で学ぶのなら楽しいと自分が思えることがしたいと思いました。また、科目として化学が得意だったから、というのもあります。
―家族は理系が多く、祖父も大学で有機化学をやっていました。理系への理解があったため、週末に科学館に行って講座を聞いたり実験を見たりする機会が多かったので、私も自然と興味を持つようになりました。 - 大学で理系に進学してみて印象的だったことは何ですか?
―理系は忙しいという印象があったので、学部1年生から3年生の間は時間の余裕が意外とあることに驚きました。バイトとかサークルなどを経験することができたのは良い思い出です。
―同じく、学部1年生から3年生の間は座学で基礎をしっかりやるため、研究は学部4年生からで、時間に余裕があったように思います。特に大学は夏季休業や春季休業が2ヶ月ほどあり、その長いお休みを利用して短期留学へ行くことができました。
- 理系に進学してみて周囲の女子の友達の印象はどのような感じですか?
-自分よりも頭が良くて、計算が早くて、計画性がある人が多いです。入学したときはレベルがあまりにも高く、大変なところへ来てしまったと思ったのですが、優秀な同級生から授業のわからないところなどを教えてもらうことができました。そうして教えてもらうことで、少しずつその高みに近づけているのかなと思います。
―世間に流布しているイメージとして、理系の女子はとっつきにくそう、などと思われることが多いかと思うのですが、お茶の水女子大学に入ってみると気さくな、普通の女の子が多かったです。理系という属性に起因する違いを同級生に対して感じることはあまりありません。それまで中高一貫で同じ人とばかり一緒にいたので、大学では全国各地から来た、色々な専門の人と会うことができ、視野が広がりました。 - 大学院に進学した動機はなんでしたか?進学してよかったと思うことはなんですか?
伊藤先生 お茶の水女子大学の理系はおよそ70%近くが大学院に進学します。学部では研究室配属が3年生になってからということが多いため、学部卒業までには研究のやり方を実践的に学ぶ程度までしかできないことがほとんどです。大学院に進学してからが本番で、本格的な研究に入ります。
―学部の4年生になってから大学院に進学することを考えました。やはり学部まででは有機化学の研究が足りない、もっとやりたいと思いました。
また、学部3年生の時にアメリカへ短期留学に行き、海外で専門的な知識を活かして就職するなら博士後期課程を修了することが一般的であると聞いていたため、博士前期課程への入学を決めた際に博士後期課程への進学も決めていました。
博士後期課程に進学してよかったことは、学会や論文発表を通じて自分の成果を世間に出せるようになったことや、研究者として生きるという選択肢の広がりを感じられたことです。
―自分の大学では学部4年生から研究をはじめ、研究のための機器の操作など、先輩から教えていただいて進めていました。そのため学部での研究はまだ自分の研究とは言えないという感覚がありました。
私も海外で働くことに興味があり、海外では企業で働くとしても専門を活かした仕事では博士号を持っていないと話にならないと聞いていたため、博士後期課程への進学を決めました。今後はもっと研究を進めて、オリジナリティを出せるようにしていきたいです。 - 女子大を選んだ理由、考えたきっかけはなんですか?
―高校までは共学の公立にいました。女子大に対して怖いイメージがあったのですが、東京に行きたい、という希望がもともとあり、それに学力や選択科目という条件を合わせて考えた結果、お茶の水女子大学に進学することになりました。懸念していた女子大は怖そう、というイメージは入学してから払拭されました。
―小学校まで共学で、中高一貫の女子校に通っていました。個人的には共学も、女子校もあまり変わらない印象を持っていたので、女子大に進学する抵抗感などはありませんでした。私立の共学とお茶の水女子大学から合格をいただいていて、どちらに行くか悩んだ結果、国立に行きたいと思ってこちらに進学を決めました。
矢島先生 私はお茶の水女子大学ではなく、東京工業大学(現 東京科学大学)の出身です。在学していた時にはクラスに女子は私一人、という状況でした。その点、お茶の水女子大学だと学部を問わずに女子の友達を作りやすく、また真面目で誠実、そしてサバサバした性格の学生が多いので、学業に専念するには良い環境だと思います。研究を続けていれば、同じ分野を研究している人と学会で会う機会は多く、男子の友達ができないかも、という心配はしなくてよいかと思います。 - 本日参加された中高生の皆さんへメッセージを
―まだ自分が将来何をしたいのか、どの分野に進学するかまだ決められていないひとは多いと思います。決まらないことに悩みすぎずに、そのうち決まると気楽に構えてくれるといいのかなと思います。
―理系の魅力は、実験など、家でできないことができる、というところにあるのかなと思います。理系に興味があったらぜひ進学を検討してくれたら嬉しいです。受験は根を詰めすぎずに自分なりの息抜きを見つけて頑張ってください。