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2021年12月19日(日)にオンラインにて「女子中高生のための第2回グローバル講演会—サイエンスから世界へ—」を開催いたしました。今回も引き続きオンラインでの開催ということで、全国各地の方々にご参加いただきました。
今回は海外での教育や研究を経験し、現在は第一線の研究者としてご活躍されている二人の先生にご講演いただきました。モデレーターは、ご自身もイギリスに留学し研究を行っていた経験のある、お茶の水女子大学理学部生物学科の佐藤敦子准教授が担当いたしました。


最初の講演は、中野 亮平 トーマス 様(マックスプランク植物育種学研究所 植物微生物相互作用部門 独立研究員)「ドイツで9年近く研究をしながら4人の子どもを育ててみた」というテーマでお話しいただきました。

中野様は日本で博士号を取得したあと、2013年からドイツの研究所で「植物微生物相互作用」の研究をされています。講演会の始まる日本の14時は、ドイツでは早朝の時間帯とのことでしたが、ドイツのご自宅から講演をしていただきました。高校時代から、音楽や物理など興味のあることに取り組んできたという中野様は、大学受験で理系を志したそうです。大学の講義で何気なく触れた生物学の面白さに魅了されたことが、海外で研究をしている現在に繋がっているそうです。

はじめにドイツでの子育てと研究生活についてお話しいただきました。ドイツでは社会全体に子育てに理解のある雰囲気・制度ができており、4人の子育ては大変ではあるものの楽しいそうです。一方で海外での子育て特有の大変さとしては、学校の先生や保護者とドイツ語でコミュニケーションをとること、ドイツの教育制度を理解することだそうです。ドイツでは小学生くらいのときに、将来大学に行くか職人になるかという教育ルートの選択をする必要があり、一度選択すると別のルートへの変更は難しいということで、日本と大きく異なる教育制度に驚きました。研究所では、世界中30か国ほどから集まった多様な仲間と最先端の研究を進めているそうです。日本のように周囲も同じ環境で育つと気づきにくいけれど「自分の当たり前」は「みんなの当たり前」ではなく、みんな違ってみんないいということを実感として肌で感じることができ、視野が大きく広がったそうです。

最後に海外で研究を始めたきっかけについてお話しいただきました。中野様は、ご家族が海外で働いている姿から海外生活に憧れをもっていたそうですが、ドイツとの縁は博士学生時代に2週間の実験をしに行ったことだそうです。そのときに出会った研究者と国際学会で再会し、現在、一緒に研究をしているそうです。偶然のおかげで、今の自分があるとおっしゃっていましたが、『生物学者パスツールの「幸運は用意された心のみに宿る」という言葉のように、自分の興味のあることには一生懸命チャレンジしてみて、やりたいことのために情報や機会を受け取れるように準備しておくことは大事です。』という言葉は印象的でした。最後に、海外に興味があって「心を用意しておきたい」皆さんに向けて、留学や海外での研究事情について発信している“海外日本人研究者ネットワーク”の活動を紹介してくださいました。興味のある方はぜひ、調べて記事やブログを読んでみてください。


次の講演は、 勝媛(チェ スンウォン)様(日本たばこ産業株式会社 たばこ中央研究所 研究員)「身近な国から考えるグローバルな世界」というテーマでお話しいただきました。

崔 様は韓国で大学院博士前期課程までを過ごされ、日本で博士号を取得されました。その後、理化学研究所で研究員を経験し、現在は日本たばこ産業株式会社で研究をされています。はじめに、韓国での教育事情についてお話しいただきました。隣国ということでなじみ深い韓国の教育制度は、日本と同様で6年、3年、3年の初等、中等教育を経て大学を目指すものです。日本と異なる点は新学期の始まりが3月からであること、そして一般的な高校の入試がないことだそうです。しかし高校入試がない一方で、大学入試の競争は熾烈で“いい大学”に行くことが人生を左右するほど重要なのだそうです。大学受験では警察が受験生を試験場まで送るなど、教育は韓国社会を語る上で欠かせない話題だそうです。

次に、日本での研究生活についてお話しいただきました。崔 様が日本に留学生として来た理由は、日本に興味のある研究をしている研究者がいること、アニメなどが好きだったこと、そして海外生活に憧れがあったことだそうです。しかし留学を決めた当初は、サイエンスの本場アメリカではなく日本に行くことで、研究環境や、研究者に欠かせない英語でのコミュニケーション機会の減少を周囲の人から心配されたそうです。実際には、日本においてもヨーロッパやアメリカなど、世界中の研究者と交流する機会があり、最先端の設備の中で研究することができたそうです。崔 様は、植物細胞の中でタンパク質が輸送されるシステムの研究をされていたそうですが、世界中の研究者とやり取りをしていく中で、研究が広がっていく経験は、企業での研究活動にも活きているそうです。また、崔 様にとっては韓国という“枠”の中を飛び出して日本という別の世界に来たことは、自分の世界を広げる機会になったそうです。自分が育ってきたところから飛び出してみることで「韓国では“いい大学”でも日本では誰も知らない。出身大学の看板ではなく、どういう研究をしているか、どういう人かを見られる」体験をできたことはとても大きな経験になったそうです。

最後に、何かに興味があるけど、苦手なことがあったりして足踏みしている参加者に向けて『まず、何でもやってみよう。そこから自分の得意不得意や新しい興味を見つけたりするかもしれない。少しずつ自分の枠を乗り越えていくと、広い世界を手にすることができます。』とメッセージをいただきました。


講演後の質疑応答では、参加者はチャットを通して講演者に質問を投げかけました。海外の教育制度や生活に関する質問や、語学習得の方法に関する質問が多く寄せられ、モデレーターの佐藤先生を交えて講演者と質問者との間で活発なやり取りが行われました。

世界のさまざまな教育制度、研究環境を知ることができ、理系進学に関心のある参加者が海外での学生生活を選択肢の一つとして考える機会になったのではないでしょうか。