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2023年8月6日(日)に「第3回 女子生徒の理系への進路選択支援を後押しするために」を開催いたしました。オンラインでの開催となり、北海道から沖縄まで全国各地から多くの方々にご参加いただきました。
今回は、社会で活かされる理系の意味や、理系に進むことで得られるコンピテンシー(資質・能力)について教員・保護者の方に知っていただくために2名の先生方にご講演いただきました。

 


最初の講演は「理系・文系 私は何系? ―世の中に出て分かった理系の意味―」をテーマに、神戸佳子先生(東海大学 児童教育学部 教授)にお話しいただきました。
神戸先生は理系の数学科出身で、一般的には文系に分類される職である小学校教員を長年務めておられました。数学が好きで得意であったことから、お茶の水女子大学の理学部数学科に進学されました。大学院で進路に迷ったときに誘いを受けたことをきっかけに、少しの間やってみようと思った小学校の先生を35年間続けてこられました。
神戸先生は算数教育がご専門で、算数の学習の中で、子どもならではの考えの面白さと大学の数学の面白さがよく似ていること、子どもの自由な発想がしばしば数学的な本質をついていることに気づいたそうです。「すずめ」と「ねこ」の匹数を足す問題のエピソードでは、小学校での演算に、集合論という数学的な概念が潜んでいました。このように、実は算数を突き詰めると数学にたどり着き、関連のなさそうな内容が根底では繋がっていることがあるというのは新たな視点でした。大学で身につけた数学の考え方が算数教育にも活きているとのことでした。
また、現在が“不確実性の時代”であることにも触れられ、専門以外のキャリアに就いても大学で学んだ知識やスキルを活かせるというお話も印象的でした。特に大学で理系分野を専攻した経験が、神戸先生にとっての算数教育のように直接的に関わるだけでなく、ものの見方・考え方や行動を支えるものとして役に立つそうです。「食べ物の好き嫌いをしてはいけないのはなぜか」を例に挙げ、当たり前だからと一蹴せずに、理系で身につけた論理的なものの見方によって「なぜか?」「本当か?」と考えを広げることができるとのことでした。
一般の人が理系に対して抱くことの多い「数学が出来ないと理系に進めない」「数学ができる人は真面目である」などのイメージは必ずしも正しくありません。理系に進むことで得た“自分を支える土台”や“考え方の芯”が社会に出てから大いに役に立つとのお話でした。

 

次に「理系で育成するコンピテンシー(資質・能力)-他者と関わる力を中心に」について、下島泰子先生(お茶の水女子大学 コンピテンシー育成開発研究所 特任准教授)にお話しいただきました。
コンピテンシー育成開発研究所は2022年4月に設立され、大学生のコンピテンシーを伸ばす活動を行っています。コンピテンシーとは社会の中で活躍し、幸福な人生を送るために必要な力、資質・能力を指し、人と関わる力や自分を律する力、考える力・ものを創り出し、改良する力を含みます。
理系に特有のコンピテンシーのうち、数学的なものについては「物事を迅速に判断する能力」や「物事を深く考える能力」などが挙げられ、科学的なものについては「現象を科学的に説明する力」「科学的な問いを評価・設計する力」「データとエビデンスを科学的に解釈する力」が挙げられていました。
これらのコンピテンシーは社会で求められ、社会で役に立つ力で、理系の複数分野のコンピテンシーを結集した結果、例えばボールペンのように生活を便利にするものが生まれているそうです。
その一方で、女性の理系進出が進まない要因の一つには、性差ステレオタイプが挙げられていました。理系の就職先のイメージが男性的であることが女性の理系進出を阻んでいるため、理系現場で働く女性の現状を発信すること、理系女性の情報を収集することが解決策になるそうです。
また、女性は理数系が苦手であるというのは誤った認識であることがOECDの学習到達度調査(PISA)によって示されています。このような思い込みを解く必要があるとのことでした。日本では、ジェンダーギャップ指数が146ヵ国中125位(2023年)であり、下島先生はまずは大人がジェンダー平等意識を持つことが必要であると仰っていました。
“他者と関わる力”も女性の理系進出に影響しているというお話は特に印象的でした。理系の職業は他者志向性が低いというステレオタイプなイメージがあるため、他者志向性が高い女性が理系を避ける可能性があるそうです。理系職業においても他者志向性が追求できる、必要とされるということを周知する情報発信や情報収集が求められています。
お茶の水女子大学の理学部においても“他者と関わる力”を育成する講義が開講されています。文理に関わらずコンピテンシーが育成されることを理解したり、理系への偏見をなくしたりすることで理系に進む女性が増え、大学や職場での女性の割合が増えることで、男女両方の視点を持ったより良い社会となるだろうとのことでした。

 

今回の講演を通じて、理系に進むことで身につく力が社会に出ても求められるものであることを実感しました。今回の講演が、「女性は理系に進みにくい」という偏見にとらわれることなく、理系に進む女子生徒の背中をおすきっかけになりましたら幸いです。

 


講演後の総合討論では、参加者から募った「数学が苦手な生徒にどのような周囲のサポートができるか」「他者と関わる力を中高生が伸ばすにはどのような経験が必要か」などといった質問に、神戸先生、下島先生から具体的な返答を頂きました。神戸先生の「他者志向性がない理系や企業は生き残れない」というお言葉が印象的でした。参加された中学生の方からも質問が出て、より一層今回のテーマである“女子生徒の理系への進路選択支援”への解像度があがる時間となりました。