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2023年9月24日(日)に第3回フロントランナーセミナーを開催いたしました。オンラインでの開催により、全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。司会は本研究所研究員の近藤るみ准教授が担当いたしました。


最初の講演は、丸山 千秋様(公益財団法人 東京都医学総合研究所)「脳発生の不思議に魅せられて」というテーマでお話しいただきました。

丸山様は子供の頃から生物への関心が強かったことから、お茶の水女子大学理学部生物学科に進学されました。学部時代は高校生の頃から関心を持っていた分子生物学、発生生物学の研究を行い、さらに修士論文、博士論文とそれぞれ研究対象を変えていったそうです。
アブラムシと共生するバクテリアについての研究で博士号を取った後、就職活動は難航したといいます。当時は女性のドクターという存在が珍しかったこともあり、やりたいことのできる就職先が見つからず悩んでいた時に、初めて発表した国際学会でアメリカへ誘われ、アメリカ国立衛生研究所にて眼の水晶体で発現する遺伝子の研究を行うことにしたそうです。アメリカでは女性研究者が子育てなど様々なライフイベントと両立しながら生き生きと研究している姿が印象的だとお話ししていました。研究の面でも生活の面でも多くのことを学んだと話してくださり、そこで出会った友人も宝物の一つなのだとおっしゃっていました。2年10ヶ月のポスドク生活を終え、日本に帰国後は理化学研究所で、ポスドクとして引き続き眼の研究を行っていました。出産後も子育てをしながら研究を行っていたところ、女性科学者の会から奨励賞をいただいたそうです。
その後娘さんの闘病生活をきっかけに研究から少し離れた生活されていたそうですが、研究所に勤めている友人から経験を活かしたらどうかと声をかけられたことをきっかけに、東京都医学総合研究所の研究員として研究を再開したとのことでした。この時に脳科学と出会い、脳神経発生学の道へと進んでいくことになりました。

現在丸山様は、東京都医学総合研究所で脳神経回路形成プロジェクトにプロジェクトリーダーとして携わられています。動物の脳で働いているニューロンがどのような動きをして発達していくのか、動画を交えてわかりやすく教えてくださいました。哺乳類の大脳皮質は層構造になっており、その層構造によって複雑な神経回路が形成できる一方で、その層構造が乱れることでさまざまな疾患の原因になるというお話も生徒たちの関心を惹きつけたようでした。

研究は、自分で仮説を立ててそれを実験によって証明していく過程がワクワクする、楽しみながら仕事ができることが研究者のメリットであるとお話しされていました。お話を聞いている中高生へも、好きなこと・ワクワクすることをやるのが一番良い、やりたいことはやってみるべきだとメッセージを送っていただきました。

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次の講演は、森 初果様(東京大学 物性研究所 教授、東京大学 副学長)「やっぱりモノ作りが好き!~化学と物理が生む未来有機材料~」というテーマでお話しいただきました。

森様は子供の頃から化学への関心が高く、高校生の時に「ルビーやサファイアはどうしてこの色が出るのですか?」という質問をした時に学校の先生から「大学に行ったら習うよ」と言われたことから化学科へ進学したいと思うようになったそうです。お茶の水女子大学化学科へ進学後、在学中にお父様の転勤をきっかけに海外へ行ってみたいと思い、ニュージャージー州立ラトガース大学化学科へ編入したそうです。アメリカへ渡ったことをきっかけに、やりたいことはとりあえずやってみようという積極性を身につけることができたとおっしゃっていました。その後お茶大へ戻った後、研究自体は愛知県岡崎市の分子科学研究研で行うことになりました。研究所は大学とは全く違う雰囲気で、研究を楽しそうにやっているところに刺激を受け、研究は夢を実現することなのだと教えてくれたと話してくださいました。

現在は東京大学物性研究所で超電導の研究をされています。森様は中高生には親しみのない超電導などのお話をリニアモーターカーや医療用MRIなど、身近なところで使われている例を挙げながらわかりやすく説明してくださいました。特に、超電導は個人プレー(自由電子があって電気を通す状態)と組織プレー(秩序が保たれた状態)の間に生まれるもので、スポーツなどで使われるチームプレーと同じような状態である、というお話は非常に興味深く、中高生も身近に感じることができたと思います。

これまで、ワクワクするか、楽しいか、をバロメーターとして研究を続けてきたといい、いつの時代もできないことに挑戦することにワクワクする、上手くいくこともいかないこともあったけれど、研究を続けてこられたことが非常に幸せだったとお話ししてくださいました。日本のように資源が限られているからこそできる、新しい物質を作り出すことの強みというものを活かして次世代へこれからも続いていってほしいとお話しされていました。
中高生へは、ワクワクする気持ちを大切に、何にワクワクするかを積極的に追い求めるべきであるとアドバイスとして伝えてくださいました。

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研究の最前線で働いているお二方のお話からは、研究者として活躍の場が多くあることを感じました。お二方が歩んでこられた多様なキャリアのお話は、理系進学に関心を持っている参加者の皆様にとって、理系進学へ自信を持って進む後押しとなったのではないでしょうか。

 

講演後の質疑応答では、参加者はチャット機能を通して自分の言葉で講演者に質問を投げかけました。女性研究者のキャリアについてなど、多くの質問が寄せられ、オンラインながら講演者と司会者・質問者との間で活発なやりとりが行われました。