2023年5月7日(日)に「植物の細胞の中のダイナミックな世界を体感しよう」を開催いたしました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策を十分にとった上で、女子中学生の方にご参加いただきました。希望する保護者の方には見学をしていただきました。
講義は、伊藤瑛海先生(お茶の水女子大学理系女性育成啓発研究所特任助教)が担当し、アシスタントはお茶の水女子大学人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻生命科学領域の大学院生2名が務めました。
講義(実験の目的)
最初に、伊藤先生から、細胞の中でおきている原形質流動と呼ばれる現象について説明がありました。原形質流動は、細胞のなかで顆粒や細胞小器官が一定方向に流れる現象のことで、中学校の理科の教科書には紹介に留まっています。原型質流動について、もっと知りたい!と思う中学生のために、中学の教科書の発展的な内容である高校の生物の教科書を参考に、その定義を学びました。そして、大学の教科書には、原形質流動の流動速度が「人類最速のスプリンターの速さとほぼ等しい」と書かれていることから、これを確かめる実験を行いました。スプリンターとは、短距離走の陸上選手のことです。
講義(材料と方法)
細胞の観察に使用した光学顕微鏡について、指差し確認をしながら各パーツの名前を学びました。また、アシスタントが各テーブルを回り、マイクロピペットという大学の実習や研究でよく使われる機器の使い方について、生徒の近くでデモンストレーションが行われました。
試料作成と顕微鏡観察
オオカナダモの葉を使ってプレパラートを作成し、顕微鏡で観察しました。4倍、10倍、40倍と対物レンズの倍率をあげ、原形質流動によって流れる細胞小器官(葉緑体)を観察しました。
観察と計測
顕微鏡のなかにセットされた目盛りをつかって、細胞小器官が10目盛り分を移動する時間を計測しました。時間の計測は、隣の人同士やアシスタントと協力し、スマートフォンやタイマーを使って行いました。そして、細胞小器官3個分について、移動速度を計算によって求めました。
また、もし細胞小器官が自分の身長と同じ大きさだった場合、100mを何秒で走る速度になるのかを比例計算により求めました。それぞれの結果を発表し、実験データを共有しました。
人類最速のスプリンターよりも速いという結果が得られた参加者もいれば、歩く速さくらいという結果が得られた参加者もいました。
原形質流動の解説
原形質流動の速さは生き物によって異なること、地球最速の原形質流動速度をもつ植物が存在すること、原形質流動の仕組みに重要なタンパク質のこと、原形質流動には植物の細胞の大きさを決める役割があることを学びました。
共焦点レーザー顕微鏡を使った細胞骨格の観察
最後に、グループに分かれて、大学の研究で扱う高性能な顕微鏡を使って観察を行いました。原形質流動に重要な細胞骨格と呼ばれる構造を観察しました。
短い時間でしたが、顕微鏡の扱い方、原形質流動の観察、計測、速度の計算、高性能な顕微鏡を使った観察を行い、たくさんのことを学ぶことができました。身近な植物の細胞のなかはどうなっていて、そのなかがどう動いているのかを観察することで、裸眼では観察できないミクロな世界に対する興味が深まる一日になったようです。