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2025年4月6日(日)に、第15回先端科学セミナーを開催いたしました。本セミナーは、オンラインと対面のハイブリッド開催ということで、現地オンライン共に全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。

今回は「おもしろい生き物の話」というテーマで二人の先生にご講演いただきました。 講演後の質疑応答では、参加者はマイクを通して自分の言葉で講演者に直接質問を投げかけました。高校生からの研究相談なども見られ、活発なやりとりが行われました。

 

最初の講演は山中 明  先生(山口大学大学院 創成科学研究科(理学系))から、『蝶々の変身術&蝶々を襲う小さな虫』というテーマでお話しいただきました。前半の「蝶々の変身術」では、時期によってまるで衣替えのように模様や形状が変わる蝶のメカニズムをお話しいただきました。季節による見た目の変化はキタテハなど多くの蝶に見られ、”春型”では黒い模様部分が増えて温度調節がしやすくなり、”秋型”では毛状鱗粉が増え、朝露が凍って本体に付着し動きが阻害されることを防ぐことができるなど、生存しやすさに結びついているそうです。

一般に、蝶が幼虫から蛹へ、そして成虫になるには内分泌系から分泌されるホルモンによる指令が関わっていますが、これは蝶の見た目を変える要因にもなっており、同じ遺伝子であっても、幼虫の時の日長と温度によって分泌されるホルモンが異なり、どの季節型で発現するかがそれによって決定されます。

後半の「蝶々を襲う小さな虫」では蝶の幼虫に寄生する蜂に焦点を当てて、その生活環を解説されました。寄生蜂の一生では、まず寄主となる幼虫が食べる葉っぱが放つ匂いを感知して、寄生蜂の成虫が卵を産みつけます。そして孵化した蜂の幼虫は寄主が動けるように神経だけは傷つけずに、それ以外の脂肪を綺麗に食べ尽くしてしまって十分に育つと寄主の体から抜け出して、種類によっては繭を作ったのちに成虫になります。研究では何齢の幼虫までは寄生できるのか、寄生蜂はどのようにして越冬しているのかなどを明らかにされていました


 

次の講演は田川 訓史  先生(広島大学 瀬戸内CN国際共同研究センター 臨海実験所)から、『海の珍しい動物ギボシムシやムチョウウズムシ』というテーマでお話しいただきました。

今回扱うギボシムシは半索動物門に分類され、海底の砂の中に住んでいるミミズのような生き物です。ムチョウウズムシは珍無腸動物門に分類されています。
ギボシムシは成体の形態では鰓裂を持つこと、襟部の中空神経索の発生様式が脊索動物と同様であること、脊索に似た口索(口盲菅)を持つことの三点が特に注目されています。脊索動物とギボシムシのような半索動物が遺伝的に近いのではないかと従来から言われており、左右相称動物の進化を考える上で重要な生物だとみなされてきました。

田川先生がギボシムシのゲノムを解析した結果、新口動物(ヒト・ナメクジウオ・ギボシムシ)で共通的な遺伝子の並びが見つかりました。特に咽頭鰓裂の発生で発現するクラスター遺伝子は最も顕著な形態学的な発見だといいます。この発見とはつまり新口動物では咽頭鰓裂に関わる遺伝子は同じで、その順番が一部組み変わっているだけであるということです。この発見から新口動物共通の祖先がギボシムシのような動物であっただろうと推測できるといいます。

今後もギボシムシとナメクジウオを比較することによって「繊毛で泳ぐ」から「筋肉で泳ぐ」への変化を探る、進化史に寄与する研究を考えていらっしゃるそうです。

また、ギボシムシは再生能力が非常に高いことも注目されます。ヒトと共通する遺伝子を持っているギボシムシにおいて再生時にどの遺伝子ネットワークが働いているのかを調べることで、ヒトにおいてはまだ知られていない再生のしくみを解き明かす手掛かりになるかもしれません。


各講演後の質疑応答では対面・オンライン共に多くのご質問が寄せられ、参加者の皆様が講演を通じて研究内容に対して大きな興味・関心を持たれたことを感じました。
質問には先生方が様々なお話を交えつつ丁寧にお答えくださいました。一部を抜粋してご紹介いたします。

山中先生には、近年の温暖化で寄生蜂の個体数に影響が出ているか、という質問が寄せられました。先生によると、その可能性も否めないものの、それよりも定期的な草刈りなどの環境要因の方が大きく、一部地域では特定の種類の寄生蜂が見られなくなる現象があったそうです。

田川先生には、ギボシムシの成体が何を食べるのか、という質問が寄せられました。先生によるとそれはいまだにそれはわかっておらず、飼育環境下では成体になったのちには縮んでいく一方、自然界のでは2メートルの大きさにも成長する個体があり、どうやってそこまで大きくなるのか、わからないことが依然として多い生き物であるそうです。

 

参加者の皆様は講演だけでなく、質疑応答の時間を通じても生物の面白さに触れて頂けたことと思います。このセミナーを機に、新たな世界を知ることに対して前向きになった方も多いのではないでしょうか。