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2024年6月16日(日)に第14回先端科学セミナーをオンラインと対面のハイブリッドで開催し、全国からたくさんの方々にご参加いただきました。

今回は東京都医学総合研究所 所長の正井久雄先生に「世界に一つだけのゲノム」というテーマでご講演をいただきました。

最初に私たちの身体を構成する最も小さい単位である「細胞」の説明から始まり、DNAや遺伝子、ゲノムといった似ているようで意味の異なる言葉についてクイズを交えて説明してくださりました。ヒトの身体は約37兆個の細胞から成り、細胞分裂によって常に細胞の数が保たれています。細胞の中にある核に収納されているDNAは二重らせん構造になっていて、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基で構成されています。この4文字の並び方で全ての生物の性質が決定されることからDNAは生物の設計図だと説明されていました。ゲノムは生物種にとって必要な遺伝子の1セットで、ヒトのゲノムは約30億塩基対あります。その中には遺伝子が約24000個ありますが、これはヒトゲノムの30%ほどで、タンパク質をコードする領域は全体のわずか3%だそうです。つまりヒトゲノムのうち97%はジャンク(=がらくた)領域だと言われていました。しかし近年この領域はタンパク質や遺伝子の制御に関わっているのではないか、と注目されているそうです。

続いてゲノムに関して授業では詳しく触れない「SNP」や「エピゲノム」についてお話してくださいました。

SNPとはDNA中にある個体間で1塩基配列が異なる部分を指します。この違いによって体質などに個人差が生じるようです。例としてお酒の強さに関連する遺伝子の1つである(ALDH2遺伝子)について説明してくださいました。日本人の多くは不活性型の遺伝子を保有しているため、お酒が弱い、または飲めない人が多いそうです。わずかな配列の違いで体質が大きく変わるということに驚きました。

エピゲノムはゲノム配列は変化しないが、DNAが巻き付いているヒストンと呼ばれるタンパク質やDNAが化学修飾を受けることで、はたらく遺伝子が変化する、というものです。例として一卵性双生児はゲノムが全く同じだが見た目や性格が同じにはならないことを挙げられていました。また、ヒトがさまざまな場面で幸福を感じると、炎症関連遺伝子や抗体に関する遺伝子の発現量が変化することもお話しされていて、私たちが元からもっているゲノムが全てではなく、どのような環境でどのように生きていくか、ということも自分を形作る重要な要素だということを感じました。また、ゲノムが分かることでがん細胞にピンポイントで作用する分子標的治療薬や患者の体質に合わせた適切な治療を選べるテーラーメイド医療への応用ができるということもお話ししてくださいました。更に、中学や高校では知る機会の少ない三重らせん構造、四重らせん構造のDNAについても触れられ、始めから終わりまでとても興味深いお話をしてくださいました。

 

質疑応答では小学生から高校生まで幅広い学年の方から質問が寄せられ、それぞれに丁寧にお答えくださいました。今回のセミナーを機にゲノム研究に興味を持たれた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。