2024年6月2日(日)に、リケジョ-未来シンポジウム スピンオフトークイベント『「好き!」の先にある未来 -理系で学ぶ楽しさを語ろう-』を開催いたしました。本シンポジウムでは、2024 年2月に刊行された岩波書店ジュニアスタートブックス『「好き!」の先にある未来 わたしたちの理系進路選択』で自らの体験を綴られた11名の中から、3名が登壇しました。紀伊國屋書店新宿本店のアカデミックラウンジにて対面形式で開催され、中高生と保護者の皆さま等の多数のご参加をいただきました。
講演の部では、株式会社ベネッセコーポレーション 伊藤舞花さん、弁理士法人あしたば国際特許事務所 弁理士 柴田紗知子さん、お茶の水女子大学 理系女性育成啓発研究所 加藤美砂子さんがお話ししました。ファシリテーターは、岩波書店編集部 山下真智子さんが務めました。
伊藤 舞花(生物学)株式会社ベネッセコーポレーション
『「好き!」の先にある未来 -理系で学ぶ楽しさを語ろう-』
伊藤さんは、お茶の水女子大学理学部生物学科をご卒業後、同大学大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンスを専攻され、修士課程を修了されました。現在は株式会社ベネッセコーポレーションで中学生や高校生、保護者の方々の学習や生活の困りごとを調査してサポートをするお仕事をされています。
幼い頃から生き物が大好きだった伊藤さんは、高校生の時に玉ねぎの表皮細胞を観察する授業で、生き物の美しさ、実験の楽しさを改めて実感し、理系の大学への進学を決意しました。しかし、当時数学が大の苦手だった伊藤さんにとって、大学受験は不安でいっぱいだったそうです。
大学に入学してからは、授業や課題のみにとどまらず、管弦楽サークルに所属したり、多様なアルバイトに挑戦したり、同じく生き物が大好きな同級生と語り合ったりと、充実した日々を過ごされました。特に、理系ならではの実習は思い出深いものが多く、遺伝学や発生学を実際に観察・解析することで学ばれました。
大学生活の後半は「陸上植物の二次代謝について調べたい!」という思いから、植物生理学の研究室へ所属し、ゼニゴケを用いてさまざまな研究をされました。学外での共同研究の機会もあり、忙しくも充実した日々を過ごされました。
理系ならではの学びの環境を通して、論理的な思考力やマルチタスクな能力、チームで動く力、発表能力を養われた伊藤さんは、卒業後は子供たちの進路選択や学びに関わりたいという思いから、教育業界でご就職されました。大学で身につけた力に今も支えられていると感じているそうです。
「誰かが言うから…ではなく、自分が一番ワクワクできるかがとても大切」「素敵な友人、先生、先輩や後輩と出会い、学問と向き合う日々はきっと自分を大きく成長させてくれて、その後の未来を切り開く力になるはずです」そう語る伊藤さんは、理系での学びを通して自信と希望にあふれていらっしゃいました。
柴田 紗知子 (物理学)弁理士法人あしたば国際特許事務所
「理系が活躍する知的財産の仕事」
柴田さんは、お茶の水女子大学理学部物理学科をご卒業後、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻で修士課程を修了されました。現在は弁理士法人あしたば国際特許事務所にて弁理士としてお仕事をされています。
幼い頃からそろばんを習っていたので計算が得意だった柴田さんは高校で理系に進み、物理・化学を選択されました。しかし物理が苦手だったことが原因で大学受験はうまくいかず、浪人されました。浪人時代に物理の克服を図り、物理や数学の面白さに目覚めたことがきっかけでお茶の水女子大学理学部物理学科へ進学されました。
大学生の頃は物理の研究者を目指し、大学院に進学されました。しかし、大学院で研究を進める中で研究者を目指すよりは企業などに就職するほうが向いているのではないかと考えたそうです。また、当時英会話スクールに通い、研究でも英語を使う場面が多かったため英語を使う仕事につきたいと考えるようになったそうです。
弁理士という仕事を知ったのは大学院での知的財産の講義でした。弁理士の仕事は理系の知識が必須で、英語力も求められることを知った柴田様は知的財産の仕事につくことを決意し、特許事務所にご就職されました。知的財産に関する仕事では理系出身者が活躍しており、弁理士の約8割が理系出身者であり、そのうち女性は2割程度だそうです。
特許事務所では、最初は特許技術者として働き、働きながら弁理士試験の勉強をして合格されました。資格取得後は弁理士として広い業務を担当され、現在の事務所では特許・意匠・商標全てをご担当されています。講演では、深張りでありながら、視界を遮らないような工夫が施された傘やおうち型のコンパクトティッシュケースといった生活雑貨の知的財産の事例を出して、わかりやすく興味深くお話をしていただきました。柴田さんのお話を通して「弁理士」という職業について知り、理系女性の活躍の幅の広さを感じ、勇気づけられた学生・保護者の方も多かったのではないでしょうか。
加藤 美砂子 (生物学) お茶の水女子大学
「理系で学ぶ楽しさに支えられて」
加藤さんは、お茶の水女子大学理学部生物学科を卒業後、同大学の大学院修士課程に進学しました。その後、東京大学大学院博士課程に進み、現在はお茶の水女子大学の先生として働いています。
中学1年の時に、生物部に入ったことがきっかけで、理系分野に興味を持つようになりました。加藤さんは生徒の大部分が私立の文系の大学に進学を希望する中高一貫校で学んでいたので、将来は、文系の大学で学ぶことが当たり前だと思い込んでいたそうです。部活では違うことをやってみたいと生物部を選んだら、生物学の魅力にハマってしまいました。生物部で行う実験の面白さと、高校の生物の授業で習った植物の光合成における二酸化炭素を取り込む反応が、カルビン・ベンソン回路と呼ばれるサイクルになっていたことに感動し、理学部生物学科を受験することを決意します。私立文系を目指す周囲の友人たちとはちょっと違った受験勉強をすることによって、一人だけ違っていてもいいのだ!と不屈の精神を養うことに繋がったそうです。
大学では、植物がうまく生きていくしくみを研究する植物生理学の研究室に所属し、研究の楽しさを再認識しました。さらに研究を続けたいと大学院修士課程、さらに博士課程に進学しました。しかし、研究は思うように進まないこともあり、自分は研究に向いていないのではないかと思うこともあったそうです。その不安な気持ちを乗り越えて、大学院修了後に、5年間、(株)海洋バイオテクノロジー研究所に勤務し、研究船で実験を行いました。この時に、大型プロジェクト研究を経験し、皆で力を合わせると大きな研究成果を生み出すことができると実感したそうです。
その後、加藤さんは、お茶の水女子大学理学部生物学科に助手として採用され、教授となり現在に至っています。大学院生の時にうまくいかなかった実験を通して修得した技術を活用することが、研究での新しい発見に繋がりました。また、大学の先生は、教育・研究以外にも、さまざまな仕事を行なっている様子を紹介してくれました。理系分野を学ぶことで身についた論理的に考える思考力は、研究以外の仕事をする上でも、とても助けになっているそうです。一期一会を大切にしながら、参加者の皆様も自分の道をみつけてほしいというメッセージをいただきました。
トークセッション
参加者の方々と質疑応答を行いました。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻博士前期課程2年生の山崎晶理さんに、トークセッションに加わっていただきました。ファシリテーターの山下さんから、講演者に質問をして、回答をスケッチブックに書いていただき、その時のエピソードなどをお話していただくことで、会場が一体となって盛り上がりました。