0

2023年6月18日(日)に、第39回リケジョ-未来シンポジウム「サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。本シンポジウムは、オンラインと対面のハイブリッド開催ということで、現地オンライン共に全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。

講演の部では、Meiji Seika ファルマ株式会社 安田紹子様、ダークトレース・ジャパン株式会社 山下暁香様にご講演いただきました。司会進行は、本研究所 研究員の近藤るみ准教授が担当いたしました。

講演の部

安田 紹子 様(化学) Meiji Seikaファルマ株式会社

「やってみたい」を大切に

安田様は、お茶の水女子大学理学部化学科をご卒業後、同大学大学院に進学され、その後 Meiji Seikaファルマ株式会社に就職されました。

学生時代は自然科学に興味があり、星の観察や星座の由来の神話が好きだったそうです。少量の元素の有無によって鉱物の色が大きく異なることや、学校の理科の実験で液体と固体を合わせた際に気体ができることにも関心を持たれていました。一方で英語にも興味があり読書がお好きだったことなどから、ご自身は文系に進むものと考えられていたそうです。

文理選択の直前の時期には、安田様は化学がお好きでしたが数学や物理が苦手で、文系科目が得意でした。また、大学で学んだことを生かして仕事をしたいとお考えになっていたため、理系で化学を学び研究者になるか、文系で語学や心理学を学び司書や学芸員になるか非常に迷われたそうです。そこで、それぞれの学問を学ぶことで期待できる点や不安に思う点を整理した結果、理系を選択し化学の道に進まれました。

大学では糖鎖結合タンパク質の研究を通して生化学の基礎を学び、学会発表だけでなく海外での発表など様々なご経験を積まれました。現在はMeiji Seikaファルマ株式会社にて、市場に出す手前の薬品の分析・評価を中心としたお仕事をされています。化学合成品である低分子医薬品と、抗体を主成分としたバイオ医薬品の両方を扱っており、大学での知識を直接生かしてご活躍されています。

安田様は理系を選んで良かったこととして、好きなことを仕事にできたこと以外に、根拠を大切にするようになったことや、リスクとベネフィットを考えられるようになったことを挙げられていました。中でも根拠を大切にすることは、物事を上手く伝えて理解を得るために必要なため、社会に出てからも重要な力であると仰っていました。

また中高生へのアドバイスの中で、小さい頃からやりたいことだけを見ると視野が狭くなってしまうことを挙げられていました。安田様は文系と理系の教科をいずれも満遍なく勉強した後に文理選択できたことが良かったと仰っていました。また、ご自身は文系に進むつもりで考えていたものの、高校で理系に進みたいと思った際にご両親や担任の先生がそれを後押ししてくれたことで、後悔しない選択をできたそうです。

ほとんどの中高生は、進路選択で一度は悩むことと思います。安田様のお言葉を機に、幅広い視点を持って進路選択に臨もうと考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。


 

山下 暁香 様 (情報科学)ダークトレース・ジャパン株式会社

自分の直感を信じて好きなことにチャレンジする

山下様はお茶の水女子大学理学部情報科学科をご卒業後、同大学大学院に進学され、現在はダークトレース・ジャパン株式会社で働いておられます。

大学以前は地元の小中高校に通われた後、お茶の水女子大学への進学を機に上京されました。山下様は博士号を取得されていますが、博士後期課程を修了した後に就職すると働いていない期間が長くなってしまうという理由から、博士後期課程の在学中に会社へ就職され昼間は仕事・夜は研究という忙しい生活を送られたそうです。また在学中は、ゲーム会社や企業の研究所などのインターンに参加された他、マレーシアに3ヶ月間の留学をされるなど、積極的に活動されました。

現在はイギリスのサイバーセキュリティ会社の日本法人であるダークトレース・ジャパン株式会社でご活躍されています。研究職として就職される同級生も少なくない中で、非研究職を選択された理由として、外資系企業への憧れがあったそうです。また、在学中からゲームとして利用できるハッキングサイトが好きであったことなどから、サイバーセキュリティ業界に進まれました。

サイバー攻撃には様々な種類があり、パソコンのシステムを暗号化し脅迫するランサムウェアは、企業や個人を攻撃し、大きな被害額を出しています。また、標的型攻撃では核施設の遠隔操作をしようとした事例があるなど、人命にも関わる問題だそうです。このようなサイバー攻撃から大切な情報を守るために、山下様の会社ではAIを利用しています。AIを利用することのメリットとして、新しいウイルスによる攻撃にも対応できることが挙げられるそうです。山下様はこのAIの新たなモデルの設計を担当されている他、週末には自ら志願して、SOCという情報システムの監視を行う業務をされています。志願された理由の1つは様々な顧客のシステムの監視を通じて勉強することができるからだそうです。ここから山下様の勉強熱心な姿勢が伝わってきました。

山下様はこれから進路選択を行ううえでのアドバイスとして、第一希望が全てではないということを仰っていました。ご自身は情報科学以外の道を志していらっしゃいましたが、困難に直面し、当時の塾の先生からの勧めもあった情報科学の道に進まれたそうです。当初希望していた道ではなかったものの、結果的にこの道に進んで良かったと仰っていました。また、希望の進路における内情を知ることや、得意科目や周りに負けない技術をもつことも大切ということを教えてくださいました。

様々な経験を積まれてきた山下様からのアドバイスは、強い説得力のあるものでした。


質疑応答

お二人のご講演の後、質疑応答の時間を設けました。講演中あるいは講演後に、参加者の皆様から挙手またはチャットから質問をお寄せいただきました。今回も対面会場・オンライン双方の参加者から多くの質問があり、ハイブリッド開催ならではのにぎやかな交流ができました。参加者からは、進路を1つに絞ることについてや、今の中高生が大人になる頃の社会についてなど、今後の進路決定にあたって様々な質問が寄せられました。講演者のお二人が一つ一つの質問に丁寧に回答してくださったことで、参加者は将来の進路への不安や疑問を解消するヒントを得られたのではないでしょうか。


懇談会(対面)

閉会の後、対面会場の希望者のみで懇談会を行いました。こちらも多くの方にご参加いただき、終始、和気藹々とした雰囲気で講演者と盛んにコミュニケーションが行われていました。参加者の方は進路の決め方についてなど、より深い相談をしやすい機会となったのではないでしょうか。