2024年1月7日(日)に、第42回リケジョ⁻未来シンポジウム「サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。本シンポジウムは、オンラインと対面のハイブリッド開催ということで、現地、オンライン共に全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。
講演の部では、株式会社コーセー研究所 安全性・分析研究室の青木郁子様、株式会社日立製作所 研究開発グループ 阿部祥歩様にご講演いただきました。司会進行は、本学の伊藤瑛海特任助教が担当いたしました。
講演の部
青木 郁子 様(生物学) 株式会社コーセー研究所 安全性・分析研究室
『理系選択ってどんな感じ』
青木様はお茶の水女子大学 理学部生物学科をご卒業後、株式会社コーセーに就職されました。
生き物が好きで、幼少期は獣医になりたいと思っていたそうです。小学生の頃にテレビ番組を通して生物や進化に興味を持つようになり,学校でも生き物係を担当していました。そして,中学生の時に海外旅行を経験し,世界史や美術にも関心を持つようになりました。生物は好きでも,化学、物理や数学が得意ではなかったので,文理の進路選択では悩んだそうです。しかし,高校2年生の頃に「全ての命が愛おしい」という本を読んだことがきっかけで,生物や進化の過程,体のしくみについて学問として学びたいと思うようになり,著者の柳澤桂子さんが卒業された,お茶の水女子大学理学部生物学科を受験することに決めたそうです。
大学の生物学科の授業はとても楽しく,泊まりがけの臨海実習や,ショウジョウバエで嗅覚の研究をされました。大学では,専門以外の科目も自由に選択できたので,西洋絵画史や心理学系の生命倫理などの授業も受けられて,ご自分の中の文系と理系の区別が曖昧になっていったそうです。
就職先はご自分が興味を持った,化粧品業界の研究所に決めましたが,品質保証の仕事に就くことになるとは思っていなかったそうで,会社に入った当初は,構造式から成分の特徴が分からず,化学品の成分の知識がなく,苦労されたそうです。皮膚の常在菌などで化粧品の品質が落ちないように管理・保証するほか,保証技術の基礎研究,品質保証の予測モデルの開発などを行っていらっしゃいます。化粧品開発は、製剤開発,皮膚科学,品質保証などの領域の様々な専門分野の人と話し合って,協力して行う必要があるので,いろいろな部署の人と話し合えるように共通言語となる領域の理解を深めて,その知識を身につけることが大事になります。青木様が新しい分野に挑戦する時には,共通言語となる領域から,必要なことをその都度勉強していくように心がけているそうです。
最後に3つのメッセージをいただきました。
「興味を持つことを大切にする。」そのために,興味を持つきっかけをつくっていこう。「理系に進むことを怖がらなくて大丈夫。」必要になった時に改めて勉強すれば大丈夫。
「社会に出ると文系理系の境界は曖昧になってくる。」自分の興味を大切に自分の得意分野を伸ばしていけばいい。
文理選択で悩んだけれど,社会にでればそのような境界はなく,専門性はボーダレスだったという言葉が印象的でした。不足する知識は必要になった時に身につければ大丈夫なので,怖がらずに自分の興味や得意なことを大切にすればいいという言葉には,勇気づけられた方も多かったのではないでしょうか。
阿部 祥歩 様(物理学) 株式会社日立製作所 研究開発グループ
『数学が好きなのに物理科?大切にしてきた“自分軸”』
阿部様はお茶の水女子大学 理学部物理学科をご卒業、大学院前期課程(修士)を修了したのちに,株式会社日立製作所に就職され,がんの研究を行なっていらっしゃいます。分野が異なっても,進路選択ではいつも数学を楽しむという軸を大切にされていたということで,就職までの進路選択時の考えと判断に至った経緯,得られた学びについてお話しいただきました。
中学生の時は,数学や理科が好きだったが,教養としての文系科目も学びたいと思ったため,迷わず理系の国立クラスを選択されました。自分のペースで勉強したいと思って中3で塾をやめたものの,第一志望の高校に不合格となり,人生で最初の挫折を経験されました。自分が精一杯努力していなかった事実に落ち込んだそうです。
高校1年生の進路調査の時に,物理が数学を使って理科の基礎を理解する学問分野だと知り,興味を持ったそうです。担任の先生からは数学を勧められたが,数学の中でも物理に密接に関わる分野が好きだったので,数学を道具として使って物理を勉強したいと思ったそうです。高校受験の反省を踏まえ,自分のペースで物理の授業を先取りで学び,放課後は毎日職員室に行き質問に行き,解法を複数考えるなど,得点力の向上を重視するように勉強方法も工夫した結果,第一志望のお茶の水女子大学理学部物理学科に入学できました。
大学の物理の分野は物性(半導体)か素粒子(宇宙系)の2種類で,それぞれ,研究形態が理論か実験かで分かれていました。阿部様は素粒子の理論を選択し,しっかり研究経験を持ちたかったので,修士課程まで進学したそうです。大学は好きなことが好きなだけでき,わからないことを教え合って,面白いことを共有し合う最高な環境だったそうです。研究は好きだったが,アカデミアの研究は自由度が高いがゆえに悩むことも多く,ご自分の人を巻き込んだり,自分を売り込んだりができない性格が,アカデミアの研究には向いていないと感じたそうです。
就職先の選択では,数学を扱う職種で活躍できそうな分野を広く調べ,悩みましたが,物理学科出身の先輩でゲノム解析に関わっている人がいたこと,身近にがんになった人がいて,がんの研究が身近に感じられたことから,今の仕事に決めたそうです。現在は,がんの患者に有効な治療薬を推薦するA Iの開発に携わっており,ゲノム解析に基づき遺伝子の異常を特定し,食い止める治療薬を推測する方法を研究していらっしゃいます。入社後,医学・生物・情報の基礎知識がなかったので,自分で高校の教科書から勉強したそうです。大学でプログラミングの経験があったことが幸いしたが,論文を読んだり書いたり,海外と意思疎通を取るためには英語が必要なので,英語力を軽視してはいけないと痛感されたそうです。
最後に「失敗から何がダメだったか学び,成功への肥やしにする。」「独学力は人生で最強のスキルとなる。」「進路に迷ったら好きなことを選択すればいい。色々な未来があるので,思う存分調べて,納得いくまで悩んで,最後は自分で決めること。」という力強いエールをいただきました。進路選択は人生の選択の練習と思って,まずは自分で決めよう,どの道に進んでも,どのような結果に終わっても必ず学びがあるという言葉がとても心に響きました。
質疑応答
お二人の講演後、質疑応答の時間を設けました。対面会場からだけでなく,オンラインの参加者からの口頭の質問も様々あり,会場から講演者が答えるハイブリッド開催ならでは交流ができました。参加者からは,苦手なことのどのように克服するか,新しい分野をどのように学ぶか,現在の職場は女性でも働きやすいか,進路選択で周囲の意見をどのように受け止めたらいいかなどの質問が寄せられました。
懇談会(対面)
閉会の後、対面会場の希望者のみで懇談会を行いました。中学生が積極的に講演者お二人とお話ししている様子が見られました。保護者の方から,前回参加して,講演者との直接の懇談の時間が楽しいと言っていたので,今回も懇談会を楽しみにしていた。学校生活では,得られない貴重な機会なのでありがたいというお声をいただきました。大学という場を実際に経験する,講演者から直接話を聞く,対話するという経験そのものの大切さを共感していただけていると実感しました。