2025年1月12日(日)に、第48回リケジョ⁻未来シンポジウム「サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。本シンポジウムは、オンラインと対面のハイブリッド開催ということで、現地、オンライン共に全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。
講演の部では、株式会社東京大学TLOの浅見 唯葉様、キヤノンマーケティングジャパン株式会社の長野 あずみ様にご講演いただきました。
講演の部
浅見 唯葉 様(数学) 株式会社東京大学TLO
『“わくわく”を大切に! 』
浅見様はお茶の水女子大学大学院の修士課程を卒業された後、株式会社東京大学TLOに入社されて、ライセンスアソシエイトとして、大学の研究を知的財産として企業で使用できるようにする橋渡しをされています。
大学で数学科を選んだきっかけとしては、高校2年生の時にお茶の水女子大学で受けた体験授業がとても楽しく、その体験授業をしてくださった先生から学びたいと思い、お茶の水大学数学科の受験を決められたそうです。中学までは将来の夢が特になく、理系科目が得意だったため、国家資格を取得できる薬剤師を目指そうかと思われた時期もあったそうですが、その先生との出会いをきっかけに将来のことを考えての選択よりも、”わくわく”を原動力に進路を決めることにされました。
高校では受験科目として数学Ⅲを利用する生徒が少なかったため、数学では何をするのか、数学科に進学して何がしたいのかと先生を含めて周囲から言われることがあったそうですが、大学に進学したことで、それまでの自分の世界が狭かったこと、同じことが好きな人がいることを知ることができてよかったといいます。
大学時代は自身が理系に興味を持つきっかけとなったのは、地元の大学生が実験教室をはじめとした子ども向けのイベントを開催してくれて、それに感動したからだと原点に立ち戻り、その感動をお返しできるようにと実験・プログラミング教室の先生をはじめとして、STEAM教育に携わっていらっしゃいました。
研究室配属が学部4年生からだったということもあり、もっと研究をしたいと考えた浅見様は修士課程に進学されました。現在の仕事は逆求人型のサイトでSTEAM教育の活動を書いていたところ、企業の人事の方からご紹介いただいたインターンを通じて内容を知って、ご縁をいただいたそうです。
就職先は技術移転、いわゆる特許を扱う仕事で生物、化学など様々な技術の最先端を見ることができ、”わくわく”する日々を送っていらっしゃいます。研究において統計などのデータ処理が行われているため、数学科での知識もそれらを読み解く上で役に立っているそうです。
浅見様は積み上げてきたことが自分を助けてくれると日々実感しているといいます。中高生の皆さんには、自分が時間を費やしてでもやりたい面白いこと、”わくわく”することから連想ゲームのように、自分の核となる大切にしたいことを探してほしい。それがきっと進路選択にも役に立つはずだとおっしゃっていました。
長野 あずみ 様 (心理学) キヤノンマーケティングジャパン株式会社
『 社会人女性は全員リケジョ!? ~「いわゆる普通の会社員」にもかかわる理系の考え方~ 』
長野様はお茶の水女子大学文教育学部人間社会科学科心理学コースを卒業後、キヤノンマーケティングジャパン株式会社に入社されました。現在は映像・遠隔接客の仕組みを用いた業務に役立つサービスの企画をされています。
在学当時は文教育学部の所属となっていた心理学を専攻されていて、世間でいうところの文系ご出身の長野さん。社会に出ると、入試科目における文系・理系は関係なく、“理系的な思考法”をする必要があり、「理系を選ぶこと」に囚われすぎる必要はないといいます。
社会に出ると、根拠に基づいて、責任を持って意思決定をする場面ばかりです。会社というのは適切な投資(企画・提案実現のために必要な経費使用)をして利益を出す必要があります。その投資判断を行う時に必要なのが、定量的(数字で表現可能)な根拠を基にして予測と説明をするという、理系的な考え方です。
例えば店内で転倒や喧嘩が起こった時にセンサーやカメラを用いて遠くの人に自動的に通知できるシステムを作りたいと考えたとします。このとき、転ぶとセンサーではどんなデータが検出されるのか、喧嘩で殴る蹴るのときにはどうか、と具体的な条件を仮定して、パターン分けして、実際に実験して、限られたデータを分析して、傾向を見出して仮説を立てる必要があります。
企業ではサービスを考案して、それを実用化して、お客様に売るために、「活動の設計」と「意思決定のための状況分析と予測、説明」をよく考えます。まず、「活動の設計」では考案したサービスがどの程度役に立つのか、効果を最大化するにはどこに着目するか、効果の再現性を高く保つためにどんな条件を整えればいいか、という項目を考えます。
次に「意思決定のための状況分析と予測、説明」では新規のサービスがお客さんの需要に応えるものであるのか、それを定量的に考えます。企業が投資を回収して利益を出すためには、最初から“正解”を当てることができれば良いですが、その“正解”は人によって違うかもしれません。サービスにおいて絶対的な“正解”がわからない中で、上司からの理解を得たり、チームのメンバーで同じゴールを目指したりする、つまりは企業という組織として意思決定してサービスを作り上げていくためには、統計的な考えに基づき限られたデータの中から定義・予測・考察を進めてそれを根拠として、利益を生むことができると人を納得させる必要があるのです。
長野様は、仕事に関して正解はないけれども、意思決定を導くためには“理系的な思考”がどんな仕事であったとしても必要になってくると繰り返しておっしゃっていました。企業での部署移動などは自分の希望ではなく、他者が決める要素も人生においては無視することはできません。しかし、専門分野として何を選んだとしても、その専門分野として選んでいた業種にそのまま就くということは稀で、基本は思い通りにはいかないものです。後悔しないために、最後には自分で決断するということを忘れないでください、とおっしゃっていました。
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【理系女性育成啓発研究所からの補足】
現在は、お茶の水女子大学に2018年度に開設された生活科学部心理学科(https://www.hles.ocha.ac.jp/ug/psy/index.html)で心理学を専門に学ぶことができます。
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質疑応答
オンラインと対面の両会場にて、参加者から様々な質問が寄せられました。質疑応答の一部をご紹介します。
・塾に行かずにどのように勉強されましたか。また、苦手教科をどのように克服しましたか。
浅見さん
長期休みに高校で開講されていた補講をほとんど全て受講しました。また、放課後に先生へ質問に行きました。
公募推薦入試を受けたため、口頭試問の対策が必要で、放課後にその練習で数学の先生3人ほどに付き合っていただきました。
数学の一点突破型の学力で、それを活かした入試を受けたので、苦手については完全に克服できたとは言えません。しかし、苦手科目の英語はゲームのようにルールが決まっていて、その型に基づいて過去問を解くような性質を持っているので、解き方さえ勉強すればある程度まで点数を安定させることができます。
長野さん
私も授業終わりや放課後に先生へ質問に行くようにしていました。私の場合は国語や英語などの文系科目は得意だったのですが数学が苦手だったので、とにかく基礎的な問題を何周もしました。基本的な問題の解法を覚えることが目的なので、最初は解き方を写す程度でも構いません。得意科目は少しやらなくて点数が下がったとしてもすぐにリカバリーすることができるので、使える時間の大半を苦手科目に注ぎ込むようにしました。
懇談会(対面)
閉会後は、対面会場にて両ゲストを囲んだ懇談会が設けられました。登壇者のお二方とも丁寧に質問に回答してくださいました。赤裸々な悩みに対して、登壇者のお二人が和気藹々と相談にのっていらっしゃったのが印象的でした。