2025年6月15日(日)に「第51回リケジョ-未来シンポジウム サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。オンライン・対面のハイブリッド開催で、全国の女子中学生、女子高校生、保護者の方にご参加いただきました。
初めに、理系女性育成啓発研究所の加藤美砂子所長から、「やりたいことをやろう」というタイトルで、日本の理系女性人材の実情やアンコンシャス・バイアスに惑わされずに、自分が面白いと思う分野を専攻すると、道は拓けるというショートメッセージをいただきました。
講演の部では、株式会社メンバーズの西井 理桜様、テルモ株式会社の中山 萌絵香様にご講演いただきました。
講演の部

西井 理桜 様(人間・環境科学) 株式会社メンバーズ 制作/UIUX 第1本部 nu.Designカンパニー サービス開発G
『理系って実はクリエティブ!リケジョの私がデザイナーになった理由』
西井様はお茶の水女子大学生活科学部人間・環境科学科に入学された後に、2022年にお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科生活工学共同専攻の博士前期課程を修了されました。企業でUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーの経験を積み、転職を経て、現在は株式会社メンバーズのサービスデザイナーをされています。
UXデザインとはモノやサービスを使う人が最高の体験をできる様に設計することを指し、UXデザイナー、サービスデザイナーという仕事では、使った人が「使いやすい、楽しい、他の人にも教えたい」と思うような商品やサービスを考えます。
理系でデザイナーというと意外な印象を受けるかもしれませんが、自分の興味や好き、得意を突き詰めていった結果、今の職業に辿り着いたのだといいます。
自分の興味を探すにあたって西井様は、まず大学の進路選択の際に、お茶の水女子大学の人間・環境科学科(当時)の生活工学に関する研究の紹介を見かけて、関心を持たれました。生活工学とはヒトの生活を豊かにするための科学や技術を指し、例えば長時間座っても疲れない椅子の設計などがこれにあたります。この分野では身近なものが学問の対象となる点に惹かれたといいます。大学では「サイズの違うハイヒールを履いた時の歩き方」についてモーションキャプチャーを用いて研究されていました。
また、学生生活では将来自分が何をやりたいのか悩んだ際に、好き、得意と思うものを見つけようと考えて、インターンシップや学生団体でのイベントの企画運営、ビジネスアイデアコンテストなどさまざまなことに取り組まれました。その中で、学生団体ではメンバーの目指す未来などを聞き取って、それをデザインや文面に盛り込んだ名刺を作成して喜ばれた経験などから、人のために働くことや、デザインを作ることが好きということがわかったそうです。
振り返ってみると、大学で学んでいた生活工学も、現在、仕事にしているUXデザインも人に喜んでもらえるものを作るという根本的な考え方が共通しており、興味ある方に進んできた結果、無意識に自分に向いていそうな職業に出会っていたとのことでした。
最後に、自分に向いているかどうかではなく、何をやり続けたかが大事であり、自分の「好き」を信じて進んでほしいというメッセージを送られました。

中山 萌絵香 様(化学) テルモ株式会社 コーポレートR&D
『面白そう!アンテナの磨き方』
中山様はお茶の水女子大学理学部化学科に進学された後に、2020年にお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科理学専攻化学・生物化学領域の博士後期課程を修了され、テルモ株式会社の研究開発職をされています。
大学では血液が体内で凝固するバランスについて、会社では病気になった時に異常になる細胞は何か、どうすれば治るのか、ということをテーマとされており、一貫して化学の手法で生物、特に人体のタンパク質の働きを研究されています。
現在の仕事をなぜ選んだのかを突き詰めて考えると、中山様の場合では「知識欲」、「専門性」などを満たせるのが現在の仕事だったといいます。まず、「知識欲」としては、生物の実験が楽しく、また世界の最先端の研究にも触れられる仕事であることに魅力を感じたそうです。次に「専門性」としては、人から中山さんに任せたい、と思われるような、唯一無二の価値のある存在になりたいと考えており、それを満たすことができるのが研究開発職だと考えられました。
自分の人生の中で仕事が占める時間は約1割もあり、せっかくなら面白い、楽しい、と思える仕事がしたかったという中山様。この面白い、という感覚は、例えるならば、桶のようなもので、「広さ」と「深さ」が重要だといいます。まず「広さ」は日頃触れる情報によって培われるので、視野を広くもっていろいろな人と話し、いろいろな本を読んでみることがおすすめだそうです。「深さ」は単に「知る」ことではなく、「わかる」ことを指しており、体験することや、さまざまな情報源から調べて、いろいろな角度で考えてみることによって養われるといいます。この「広さ」と「深さ」を成長させていくことで桶に貯められる水が増え、面白いと感じる対象が増えていきます。そうして自分の桶を大きくすることでその中でも特に、自分が面白い、楽しい、と感じられるものが見つけやすくなるのだそうです。
最後に、行き当たりばったりでも、計画的でもどちらでも楽しいので、自分自身が納得できるようにすることが大事だとおっしゃっていました。


質疑応答
講演後の質疑応答の時間には、「文系に行けばよかったと後悔したことはないか」、「女性であることで社会での障壁を感じたことはないか」などの質問が寄せられました。西井様、中山様のお二方とも、具体的な経験を踏まえて回答されている姿が印象深かったです。前者の質問については、お二人とも「特に後悔したことはない」と回答されました。後者に関しては、大きな障壁を感じたことはないとのことです。同期の男女比に大きな偏りはないが、管理職の男女比ではまだまだ男性が多いと感じることはあるそうです。近年では男女差のない会社が増えているため、今の中高生が大人になる頃にはもっと改善されているのではないかと展望を述べられました。

懇談会(対面)
対面での参加者を対象にした懇談会では、講演者のお二人と直接コミュニケーションできるということで「好きを重視する、ということをテーマに講演されていたが、逆に嫌い、苦手と思うこともあるのか」「他大学と比較した時のお茶の水女子大学の魅力は何か」など質疑応答よりもさらに踏み込んだ内容が多く登場しました。講演者のお二人は率直に回答してくださり、参加者のみなさんにとってリケジョのイメージをさらに広げ、深められる場を提供できたのではないかと思います。
今回のイベント全体を通じて、理系に進学しようか迷っている女子中高生の背中を少しでも押すことができたら嬉しいです。