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本学森寛敏准教授が公益社団法人新化学技術推進協会の第6回新化学技術研究奨励賞を受賞しました

受賞対象研究課題:水素吸蔵性合金ナノ粒子内の有効空隙最大化を目指した第一原理的水素吸蔵空間可視化法の開発とその応用

皆さんは「化学でものづくり」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか? 恐らく大多数の人が、白衣を身にまといひたすらフラスコを振り続ける、そんなイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。実は、近年の材料化学の分野では、実験のみに依存した試行錯誤研究から、理論やデータ科学(人工知能)に基づく「狙った」機能物質創成へと研究スタイルが変わりつつあります。お茶の水女子大学基幹研究院の森寛敏准教授(理学部化学科担当;JST さきがけ マテリアルズ・インフォマティクス領域研究員 兼任)は、そのような近年の潮流を日々の研究・講義にいち早く取り入れている若手理論化学者です。今回は、森准教授が推進している研究で、2017年6月に新化学技術推進協会第6回新化学技術研究奨励賞の受賞対象となった「水素吸蔵性合金ナノ粒子の理論設計方法に関する研究」を簡潔に紹介したいと思います。
森准教授の受賞研究における研究対象は、水素を貯蔵する水素吸蔵合金です。水素は炭素を含まないため、燃焼時に水しか排出しない未来のクリーンエネルギー源として期待されています。しかし、常温常圧で気体として存在する水素を実際にエネルギー源として活用するには、エネルギーの保存場所を考慮して、体積を減らさなければなりません。そこで、水素を内部に吸収し体積を減らすことのできる水素吸蔵金属が注目されています。問題は、温和な条件で作動する水素吸蔵金属が、日本にほとんど存在しないレアメタルであることです。この問題を解決するため、日本では近年、レアメタルの水素吸蔵能を、ありふれた金属の混合(合金化)により模倣しようとする試みがなされてきました。しかし、どんな金属をどんな割合で混ぜればパラジウムの水素吸蔵能を超えられるかを予測することはできず、水素吸蔵合金の開発は試行錯誤的な実験のみに基づいて進められてきました。もし、合金材料の水素吸蔵特性を、コストと労力のかかる合金の合成前に予測できれば、安価な水素吸蔵材料の迅速な開発に貢献できます。そのような水素吸蔵材料の開発を促進するための理論的指針を見出そう、というのが森准教授の研究です。(図1)

図1 水素吸蔵材料の開発現状とその課題(温和な条件で水素吸蔵する材料は水素吸蔵量に難がある。水素吸蔵量に優れた材料は作動条件が温和でない。)

具体的に森准教授は、既存の水素吸蔵合金と水素の間に働く相互作用を、コンピューターシミュレーションを用いて計算してきました。一般に、分子の間に働く相互作用には、高校で習うファンデルワールス力のような引力相互作用の他に、分子をお互いに引き離す反発相互作用が存在します。つまり、水素吸蔵合金と水素の引力相互作用と反発相互作用の大きさの兼ね合いにより、トータルの水素吸蔵量が決まっていることになります。しかし、分子の間に働く相互作用は実験的に直接観測することができませんし、ましてやそれらの内、どれだけが引力でどれだけが反発力に由来するものであるのかを観測することは不可能です。森准教授は、量子力学に基づくコンピューターシミュレーションにより、純粋な金属の場合最もよく水素を吸収する金属であるパラジウム(Pd)と白金(Pt)などのその他金属について、金属と水素の間に働く相互作用を、引力と反発力に分割して算出しました。実験では分割できない相互作用も、理論計算では物理法則に基づき、引力と反発力に分割して評価することが簡単にできます。コンピューターシミュレーションの解析結果、森准教授は、パラジウムとその他レアメタルの間で水素を引きつける力に大きな違いはないこと、そして、水素との反発相互作用がパラジウムの場合突出して小さいため、パラジウムにおいて水素がより吸蔵されやすい条件になっていることを見出しました。水素が反発力を感じる領域を可視化すると、水素吸蔵材料の内部に有効に水素が侵入できる体積を直感的に理解できます。(図2)

図2  パラジウム(Pd)および白金(Pt)内の水素吸蔵可能体積の可視化

現在、森研究室では各水素吸蔵材料の候補となる任意の合金について水素の有効吸蔵体積を可視化するデータベースの開発を推進しています(図3)。森准教授は「将来的に、現在作成中のデータベースと人工知能を連携させることで、パラジウムに代わるレアメタルフリーな水素吸蔵材料が見出せる可能性が十分にある」と語ります。材料化学と物理・数学・情報科学の融合により、世界のエネルギー事情に貢献する研究成果が近い将来得られるかもしれません。(図3)

図3 合金化による水素吸蔵可能体積の変化の様子(体積と合金組成をデータベース化することで人工知能を用いた新奇水素吸蔵合金の提案可能になる。)

 

参考 http://www.ocha.ac.jp/news/20170524_01.html