0

2024年4月28日(日)に、第44回リケジョ-未来シンポジウム「サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。本シンポジウムは、オンラインと対面のハイブリッド開催ということで、現地、オンライン共に全国各地から沢山の方々にご参加いただきました。

講演の部

嶋岡 千紘 様(人間・環境科学) 独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部

建築史の研究から、まちづくりの仕事へ

嶋岡様はお茶の水女子大学生活科学部人間・環境科学科を卒業後、大学院生活工学共同専攻の博士前期課程を修了されました。現在は、独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部に勤務されています。学部の卒業論文では明治期の洋館の歴史に関するご研究をされ、修士課程ではドイツへの交換留学も経て、同じ研究内容について深められ、今のお仕事内容にもそうした建築に関する学びが繋がっているそうです。

大学・大学院時代のご専門やお仕事の内容を伺うと、建築に対するご興味がもともとおありで、順風満帆にやりたいことを突き進んでこられたようにみえますが、これまでに「自分の本当にやりたいことは何か」と悩む機会も多かったといいます。

昔から美術館や博物館が好きで、中学のときには作品に携わりつつ仕事をしたいという夢があったそうです。作品への携わり方としては、作品を作る側になる、という方法もありますが、険しい道です。ですが、建築であれば勉強さえすれば、作品に携わりつつ仕事をすることが可能になると考えて、建築を大学で学ぼうと志されました。

しかし、高校時代、理系科目よりも国語や英語といった文系科目を得意としていたそうです。そのため、進路選択では「自分が理系を選択して大丈夫か?」という想いに囚われることが少なくなかったといいます。そのため、頼れる先生を見つけて、職員室に何度も訪れて相談をされたそうです。相談を重ねる中で、建築を学ぶには必ずしも工学部である必要はないことに気づくことができ、十分な設備があるなら、先生と距離が近い、小規模な大学が自分に合っているだろうと考えて、お茶の水女子大学を選択するに至ったといいます。こうした経験から、人に相談してみることは、自分の中の価値観を整理する上で有効だったと振り返られています。

そうして、大学に進んだ後も、建築が本当に自分の好きなことなのか、と悩むこともあったといいます。そのため、選択肢や視野を広く持つことを心がけながら学生生活を送っていたそうです。具体的には、建築と全く関係ないバイトをやってみることでどちらが自分のやりたいことかを再確認するなど、意識的に学外の人とも繋がるようにしたといいます。興味があったらやってみる、を徹底した結果、ドイツへの留学では歴史的な要素が街に組み込まれる建築について知見を深めて、修士論文に繋がり、瀬戸内海にある犬島でのワークショップでは古民家の改修に携わり、町おこしについて考えるきっかけになって、今の仕事にも繋がっているといいます。

悩み続けるなかで、自分のやりたいことをはっきりさせるためには、ひとまず動いてみて、それがやりたいことかどうか、試行錯誤して確かめてみることが大事だと実感したと語っていらっしゃいました。やりたいことが学生のうちだとなかったり、具体的なイメージがつかなかったりすることもあるかもしれません。そうした場合でも、今、目の前にあることを一生懸命にやって、悩みながら回り道を繰り返してみることが大事だそうです。

 


 

笠江 優美子(情報科学)  NTT コンピュータ&データサイエンス研究所

なりたい自分に自分を導く

笠江様はお茶の水女子大学理学部情報科学科を卒業後、大学院理学専攻情報科学コース博士前期課程を修了されました。その後、NTT コンピュータ&データサイエンス研究所の企業研究者としてキャリアを積まれたのち、今も引き続きお勤めになりながら、お茶の水女子大学の博士後期課程に在学されています。

今の自分があるのは、今までの6回におよぶ大きな選択の結果だそうで、その6回の内訳に関して、詳しくお話ししてくださいました。

まず、一つ目の分岐点は、大学進学を見据えて高校に進学したことだそうです。幼稚園のときからコンピューターに触れて、中学生のときにはホームページを自作するなど情報系への関心が高かったそうで、先生からは地元の情報系に力を入れている高校を薦められたそうです。しかし、大学に進学することを、お兄様の影響で漠然と考えており、また将来の選択肢の幅が広がるような進路を選びたいと考えたため、県立進学校に行くことに決めたそうです。

次に、二つ目の分岐点としては、コンピュータ関係への関心が強かったため、周囲の環境として理系に進む女子が少なくても理系に進む、と決めたことが挙げられます。そうした理系女子の少ない逆境だからこそ、昔からの負けず嫌いが発揮されたといいます。

三つ目の分岐点としては、お茶の水女子大学の情報科学科に進学したことで、高校までと違って、理系であっても女子しかいないという特殊な環境に身を置くことになったことだといいます。性差を感じることがなかったことに加えて、意思を持ってチャレンジする人が多く、興味関心のある内容ばかり学べる環境はとても刺激になったそうです。

四つ目の分岐点としては、研究室配属でより少ない人数で専門的な内容に取り組むことで、メンバーと切磋琢磨しあう喜びを知り、研究が楽しいと思えたことだといいます。自分で必要な情報を探してきて試行錯誤するのは大変だったそうですが、目標に向かってゼロから技術を生み出す楽しさを知ることができたそうです。

五つ目の分岐点としては、企業研究者になることを決めたことだといいます。学会で企業研究者とお話しする機会があったことで、研究を続けたいというモチベーションが高くなり、企業研究者というのは修士修了が多かったため、修士だからこそ就職できるところに行ってみたいと思ったそうです。

最後に六つ目は、お茶大の博士課程に行くことに決めたことだといいます。企業研究者として活動していく上で、「自分だからできること」や「自分らしさ」について考えさせられることが多かったといいます。二度にわたって育児休暇を取得したことで、同期と比べた時に専門性をより明確化する必要をより感じて、そのような決断に至ったそうです。

企業研究者かつ母かつ学生という三足のわらじは大変ですが、そうした色々なチャレンジによって得られる知見や軌跡が自分にしかない専門性になり、自分だからできたことになるのだと今後への意気込みをのぞかせていらっしゃいました。


質疑応答

オンラインと対面の両会場にて、参加者から様々な質問が寄せられました。質問の一部をご紹介します。

・職場では質問力が重要というお話がありましたが、質問をする上で大事なことや意識していることはありますか?

嶋岡さん
この場で質問をしていいか迷うこともあるので、一旦自分で持ち帰って自力で調べてから、上司などの詳しい人に、どこまでがわかって、どこからがわからないのかを明確に示すようにしながら、後で聞くようにしています。

笠江さん
質問をするときに自分の思いや持っている知識など、自分が持っている前提条件も一緒に示すようにしています。どんな根底の条件があってこの質問をしているか、ということがわかって相手が意図を掴みやすくなると思って、そうした工夫をしています。

・オープンキャンパスではどんな観点をもって見に行くといいですか?

嶋岡さん
私は設備が気になっていたので、それを気にしていました。優先順位の問題なのかなと思っています。学校の雰囲気を掴んだり、先生のお話を聞いてみたりすることが参考になるのではないかと思います。留学を考えているなら、留学に行きやすい制度があるかを見てみるのも大事だと思います。

笠江さん
自分の興味ある研究があるのか、ということが大事だと思います。オープンキャンパスでは学生と話す機会があるので、私はそこで話を聞いて、自分にとっての目標ができるかを考えていました。また、研究分野によってはその先生がその分野に強いのかは就職に響くかもしれないので、そこを基準にしても良いと思います。


懇談会(対面)

閉会後は、対面会場にて懇談会が設けられました。登壇者のお二方とも残って、丁寧に質問に回答してくださいました。質疑応答の時間内ではおさまらなかった質問を、残って聞いてくださる参加者の方々の熱意を感じることができました。