本学佐藤敦子助教が平成29年度文部科学大臣表彰で若手科学者賞を受賞しました。

タイトル:英国の動物地理学的特性を活かした進化生物学的研究

佐藤敦子助教は、大学院博士課程でオックスフォード大学に留学して以来十数年にわたり、イギリス海峡に見られる世界的に珍しい動物地理学的特性を活かして動物学・進化生物学上長年成し遂げられなかった問題に取り組んできました。そのひとつは、半索動物翼鰓(よくさい)類(フサカツギ類とも呼ばれる)の分子発生生物学的研究を世界で初めて行い、脊椎動物の左右性の起源とその進化について新たな知見をもたらしたことです。半索動物は脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物のひとつで、脊椎動物の起源とその進化の研究において重要な位置にあり、腸鰓(ちょうさい)類(ギボシムシ類とも呼ばれる)および翼鰓類の2属からなります。分子発生生物学で研究が進んでいた腸鰓類に比べ、翼鰓類は、採集が難しいことから生物学的知見が非常に乏しい状況にありました。佐藤助教はこの点に着目し、翼鰓類の研究に取り組みました。成体でも0.5 mmに満たない小さな動物ですが、顕微鏡下での操作を駆使して採集していました。そうして採集する中で、半索動物の系統で脊椎動物に見られる左右性とは異なった、ランダムな左右性の進化が起こっていることを発見したのです(Fig 1)。さらに、左右性の形成に重要な遺伝子のひとつであるhedgehog遺伝子が、半索動物で異例の進化を遂げていることも発見しました。

佐藤助教は、博士の学位を取得後、世界で唯一イギリス海峡でのみ局所的に棲息しているカタユウレイボヤの姉妹種についての研究を始めました。カタユウレイボヤは、私たち脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物の仲間である原索動物の一種で、リンネの記載以来数百年にわたって発生生物学のモデルとして非常によく研究されてきました。しかし、近年の比較ゲノム研究により、1種と思われていたカタユウレイボヤが実は2種の姉妹種からなることが明らかになったのです。佐藤助教は、これらの2種の姉妹種が異なった温度環境に棲息していることに着目し、この2種の姉妹種を比較研究することで、動物がどのように温度環境に適応しているのかがわかるのではないかと考えました。佐藤助教が研究を始めるまで、これらの姉妹種には外見での区別がつかないとされていましたが、500以上の個体について形態とゲノムのタイプを丹念に調べていくことによって、野外でも簡単に種の判別を可能とする形態的特徴を発見しました。この研究により、リンネが記載した当時から数世紀にわたって1種と信じられてきたカタユウレイボヤは、2種として正式に記載されることになりました(Fig 2)。さらに、これらの姉妹種の比較研究により、動物の環境適応には、小胞体と呼ばれる細胞内小器官の役割が重要なのではないかという新しい仮説を導きました。

佐藤助教の研究は、どちらも世界を先駆ける試みで、何年もの粘り強い研究を重ねた成果です。高度な海洋生物研究技術とその発展に寄与し、人類の進化的由来について新しい知見をもたらすものと期待されます。

こちらも参照してください。
http://www.ocha.ac.jp/news/d003632.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1384228.htm