本学伊村くらら講師が公益財団法人マツダ財団のマツダ研究助成奨励賞を受賞しました.

受賞対象研究課題:界面活性剤の選択的被覆を基軸とした元素精製を指向するナノ結晶抽出法の開発
2020年の東京オリンピック開催に向けて、日々さまざまなニュースが流れています。その中でも広い注目を集めているのは、やはりメダルではないでしょうか。持続可能な社会の実現をコンセプトに掲げる東京2020大会では、使用するメダルをリサイクル金属から制作するというプロジェクトが進められています。このリサイクル金属とは、皆さんの身の回りの家電製品に含まれている小さな電子部品のことです。金などの貴金属は、宝飾品だけではなく科学技術全般に大きく関わっている重要な材料でもあるのです。

さて、金というと皆さんはどのような色を思い浮かべるでしょうか?多くは金メダルのような黄金色を挙げるかと思います。実は、金の結晶を一億分の一メートル(十ナノメートル)くらいまで小さく整えナノ粒子として分散させると、赤く見えるようになります。赤色の正体は局在表面プラズモン共鳴という現象によるもので、金のナノ粒子が持つ特徴の一つです。この色調はナノ粒子の形やサイズ、元素などによっても鮮やかに変わっていきます。また、金ナノ粒子には触媒としての性能が高いことも分かっており、新しい有機合成経路を開発する高機能触媒としての開発も盛んに行われています。これらの応用研究では、貴金属ナノ結晶の形や分散状態といった因子をよく制御し、狙い通りの機能を引き出すことがとても重要です。しかし、当然ながらサイズの極めて小さなナノ粒子は肉眼では観察できず、手やピンセットで直接触れることもできません。お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系の伊村くらら講師は、コロイド界面化学の視点から、貴金属ナノ結晶の分散制御に取り組んでいます。

界面活性剤は、一つの分子の中に水へなじむ部分(親水部)と油へなじむ部分(親油部)の両方を持ち合わせる化合物の総称です。洗剤や乳化剤としても用いられていることから、私たちにとって最も身近な化学物質の一つと言えるでしょう。界面活性剤が水と油などの相境界(界面)に吸着すると、例えば、小さな液滴を安定に分散させることができます。貴金属ナノ結晶でも同じように、界面活性剤が吸着すると粒子の分散に大きな影響をおよぼします。伊村講師はこれまでに、外部刺激応答性を持つ界面活性剤を吸着させることで貴金属ナノ結晶の表面を被覆し、分散状態の制御を試みてきました。まず、界面活性剤の親水部として弱塩基性のアミノ基や弱酸性カルボキシ基を導入し、pHや温度条件に応じて界面活性剤の特性を変化させる性能を付与しました。すると、外部刺激に応答して貴金属ナノ結晶被覆膜の溶媒親和性が切り替わり、液中での分散状態を自在にコントロールすることが可能となりました(図1)。

図1 界面活性剤で表面を吸着被覆した貴金属ナノ結晶.

    さらに界面活性剤の作用を化学の目線で紐解いていくと、「分子の集合」というふるまいにも着目することができます。小さなものでは、例えば界面活性剤分子およそ数十個が会合したミセルがありますが、これがより大きく会合していくと平面状の多層二分子膜構造(ラメラ)などが形成されます。外部刺激に応答する界面活性剤は、こういった分子集積構造を温度やpH変化のみで組み替えていくことができます。例えば、溶液状のものを一瞬でゲル状に変化させることもできるのです。貴金属ナノ結晶と親和性の高い界面活性剤を用いれば、ゲルの中にナノ結晶を取り込み閉じ込めてしまうことができると考え、伊村講師は有価資源である金ナノ粒子を回収して再利用するシステムの構築を行いました(図2)。取り込まれるナノ結晶の元素種類や形、サイズを選別していくことで、ナノ結晶の分離と精製といった新しい抽出システムへと展開することも可能です。持続可能な社会に向けて、無機ナノ材料の果たす役割はとても大きいものと考えられます。界面活性剤を介して目に見えない小さなナノ材料を自在に操り、新しい材料機能の開発につなげていく研究が進められています。

図2 界面活性剤ゲルを用いた金ナノ粒子の抽出と循環利用.