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本学の中久保豊彦助教が環境システム論文奨励賞を受賞しました。

受賞対象論文:脱水汚泥の直接セメント原料化(キルン投入方式)を対象としたエネルギー収支解析

(土木学会論文集G(環境),Vol.73,No.6,pp.II_233-II_244,2017/10)1)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejer/73/6/73_II_233/_article/-char/ja

本学,生活科学部人間・環境科学科中久保助教が、平成30年度の環境システム論文奨励賞を受賞しました。本賞は、平成29年度に出版された土木学会論文集G(環境)Vol.73, No. 6(環境システム研究論文集 第45巻)に掲載された査読付き論文のうち、1報が選定され、土木学会・環境システム委員会より表彰されるものです。
土木学会と聞くと、土木計画や土木構造物などを想像されるかもしれませんが、実は様々な分野の研究を扱っています。土木学会の中でG部門は環境学を扱う部門として位置付けられており、G部門の中にも3つの委員会があります。その1つが環境システム委員会です。環境システム委員会は、システム工学の視点で環境問題の解決に貢献することを志す研究者の集まりです。環境問題を扱う際には、問題を構造化し、現在の状況や対策実施の効果をどう定量的に扱えるようにするか、効果はどのような指標で測るべきか、などの枠組みを考える必要があります。この枠組みを構築するための手法は、環境評価技法(モデリング技法)として、土木学会の環境システム委員会を中心に学問的知見の体系化や様々な技法の開発が行われてきました。中久保助教は環境評価技法を専門とし、本学で様々な研究活動を展開しています。

今回、受賞対象となった研究内容を紹介します。研究の対象は下水汚泥のリサイクル計画です。私たちが日々のくらしの中で排出している生活排水は下水処理場で処理されています。下水処理場が採用している現在の下水処理方式(活性汚泥法)では、下水処理により下水汚泥という廃棄物が発生します。下水汚泥は脱水後も含水率が80%と高く、扱いにくい廃棄物ですが、国の政策目標として下水汚泥エネルギー化率という指標が設定され、下水汚泥のリサイクルは汚泥に含有される有機物のエネルギー利用に重点を置いた時代へと移行しています。これは、温室効果ガスの排出削減を図るためです。ここで重要となるのは、どこまでコストをかけて、下水汚泥の分野で温室効果ガスの排出削減を図るかという視点です。地球温暖化対策が重要であるからと言って、無尽蔵にお金をかけることはできません。その判断基準を提案し、ケーススタディを行ったのが中久保助教の今回の受賞論文です。
ケーススタディは北関東(群馬県、栃木県)の2県が対象です。この2県では、多くの下水処理場において脱水汚泥の資源化方式として直接セメント原料化が採用されています。これは、脱水汚泥の処理をセメント工場に委託し、セメント工場内のキルン(セメントの原料を焼成するための回転式の窯)で脱水汚泥を焼却することにより水分と有機分を飛ばし、灰分を原料利用する方式です。この方式(直接セメント原料化)は先述の下水汚泥エネルギー化率の向上に貢献できない方式であるため、直接セメント原料化を継続すべきかどうか、その判断基準を論じる必要があります。研究の過程で最初に行ったのが群馬県・栃木県における下水汚泥のマテリアルフローの把握です。この2県において、現状、どのように下水汚泥が処理・資源化されているかを解析しました。続いて、直接セメント原料化が採用されている下水処理場において、直接セメント原料化を継続するか、汚泥の固形燃料化に変更するか、その選択肢を比較評価するための枠組みを設計しました(図1)。

図1 比較対象とする下水汚泥リサイクル計画の設定(文献1) より)

これまで脱水汚泥の直接セメント原料化については、どのようなエネルギー収支構造になっているのか、温室効果ガス排出量はどの程度なのかを調査・解析した事例は限られていました。
本研究では、論文のタイトルにもあるように、その解析に取り組んだ点に新規性がありました。
費用対効果の視点での評価結果を図2に示します。図2の読み方ですが、横軸が下水汚泥の分野で温暖化対策を実施することによる事業コストの増加分です。縦軸は、その対策による温室効果ガス排出削減量を指します。すなわち、プロットと原点を通る直線(傾き)を求めることで、費用対効果を論じることができます。図2の結果より、過去に大都市の下水処理場で実施された汚泥焼却炉改修によるN2O排出削減策「通常焼却→高温焼却」、近年大都市で進められている固形燃料化計画「高温焼却→固形燃料化」と比較して、地方都市を対象とした「直接セメント原料化→固形燃料化」は極めて費用対効果が低い対策であることが把握できます。この評価結果を踏まえ、本研究では、直接セメント原料化から固形燃料化への転換は費用対効果が小さく、直接セメント原料化の継続も有用な判断であると結論付けました。

図2 費用対効果の評価結果(文献1) より)

 理工系分野を志す中高生へのメッセージ:環境問題は、革新的な技術が開発・導入されれば解決できるという一面のみで論じられるような、単純なものではありません。技術の導入、制度のあり方、技術と社会から成るシステムの形成など、様々な視点で解を模索する必要があります。環境問題に関心のある方は、ぜひとも環境システム学に関心を持って頂ければと思います。