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2021年4月25日(日)に、オンラインにて第29回リケジョ-未来シンポジウム「サイエンスの学びから将来の夢へ」を開催いたしました。今回も引き続きオンラインでの開催ということで、全国各地の方々にご参加いただきました。

講演の部は、キユーピー醸造株式会社 石田萌子様、帝人ファーマ株式会社 戸井智子様にご講演いただきました。

司会進行は、本機構機構長の加藤美砂子教授が担当いたしました。

講演の部

石田萌子様(生物学) キユーピー醸造株式会社 研究所

『「好きなこと」で繋がる道』

好奇心旺盛に色んなことに取り組む中で見つけた自分の「好きなこと」をとことん突き詰めることで、自分の道を見つけてきたという石田さんからは、自分なりの進路の見つけ方を教えていただきました。高校時代は将来の夢やなりたい職業がはっきりしていなかったという石田さんは、大学で新しい世界を見てやりたいことを見つけようと決意したそうです。お茶の水女子大学の生物学科に進学されたきっかけは、「生きものが厳しい環境にさらされたとき、動物は逃げることができるが、逃げることのできない植物は自身の形を変化させたり代謝産物をつくりだしたりすることで環境に適応する」という植物の生命力に感動したことだそうです。大学・大学院では、目に見えないほどの小さな微細藻類が作り出す脂質(油)の代謝が培養環境によってどのように影響されるかという研究に取り組まれ、研究での試行錯誤により「好きなことであれば、困難なことがあっても頑張れる」という自信が生まれたとおっしゃっていました。また、サークルや短期留学で価値観やモチベーションの異なる多様な人と関わる中で「多様性のある組織を動かし、成果を出す楽しさ」を感じたそうです。就職活動には広い視野で取り組まれたそうですが、やはり「好きなこと」をやることが一番楽しく一生懸命になれると感じたそうです。そして、これまでの経験から得た、自分の興味をとことん掘り下げる、多様な人と力を合わせる、好奇心をもって広い視野をもっている、というご自身の強みを活かし、人の命の源であり多くの人を幸せにすることができる「食」に興味があったことから、食品メーカーであるキユーピー醸造株式会社に就職され、開発職として商品の開発に取り組まれています。営業、生産、お客様を繋ぐ開発職の業務では、おいしさ、という具体的に表しづらいものを理論的に伝えるときなどに、これまで培ってきた理系的な考え方が活きているそうです。「好きなこと」にとことんのめり込み、自分のやりたいことを少しずつ見つけてきたという石田さんからは、自分の将来進む道を探している皆さんへ『今少しでも好きだなと思うことを一生懸命やってみて。好きなことを探している人は、どんな経験も自分の「好き」を見つけるチャンスなので飛び込んでみてほしい。自分にしかない道を「好きなこと」で見つけてください。』という熱いメッセージを最後にいただきました。

 

戸井智子様(化学) 帝人ファーマ株式会社 医薬生産推進部

『生きものの命にかかわる仕事がしたい ~薬をつくる~』

高校時代に単純に化学が好きで得意だったことから理系に進んだという戸井さんは、理系に進んだことで、理系学生にしか与えられない充実した実験環境の中で、まだ解明されていない科学現象を明らかにしたり仮説を検証したりすることは胸が高鳴ることだと気づいた、と理系ならではの魅力を語っていただきました。お茶の水女子大学の化学科に進学されたのち、大学・大学院では「化学物質の立体を選択して合成する」ための研究に取り組まれました。同じ化学式でも立体構造が異なることで望まない影響を与えてしまうことがあるため、化学の恩恵を受けるためには立体構造をコントロールしてどちらか一方を選択的に合成することが非常に重要なのだそうです。研究を通して『生き物の命にかかわる仕事がしたい、自分の携わった仕事で人々の生活を豊かにしたい』という思いが強くなったことで医薬品・ライフサイエンス業界を志すようになり、帝人ファーマ株式会社に就職されました。そして初めて取り組まれた医薬品候補の初期物性評価という業務で出会ったフェブリク錠という痛風の薬の日本での製品化を実現する業務に取り組まれました。それまでは大きくて飲みづらい薬を1日3回飲まなければならなかったところが、痛風の40年ぶりの新薬であるフェブリク錠は小さくて1日1回の服用で済むそうです。多くの人の苦しみを取り除くだけでなく、生活の質(QOL)を向上させることに繋がるのは素晴らしいことだと感じました。製品化のためには国に申請した通りの厳しい製造工程と安定した供給が求められるそうですが、多くの人に影響を与えるからこそ厳格な基準が設けられている医薬品の現場の大変さと、そこを乗り越えて製品化にたどり着いたときの達成感を感じるお話でした。現在は、国内でのさらに安定した生産と、世界各国での生産の申請準備を進める業務をしていらっしゃいます。また、理系というと大学で学んだことがそのまま仕事に結びつくイメージがありますが、大学で学んだ基礎知識は役立つことがあるが、研究テーマや専門性がそのまま役立っているわけではないという、少し意外なお話を聞くこともできました。しかし壁に当たったときにどのように対処するか、どのように道筋をたてて仮説を検証していくか、という大学時代に培った「考え方」はどんな仕事をするときにも役立つことを教えていただきました。参加者の皆さんへの『今興味のあることに一生懸命に真剣に取り組んで色々な経験を積んでほしい。将来どんな道に進んだとしても真剣に取り組んだ経験は活きていく。』というお言葉は、得意で好きな化学を学ぶなかで夢を見つけてこられた戸井さんらしいメッセージで、進路に悩む学生も勇気を与えてもらったのではないでしょうか。

 

質疑応答

お二人のご講演の後、質疑応答の時間を設けました。講演中あるいは講演後に、参加者の皆様に質問をチャットに書いていただきました。質問を書いた参加者は、マイクを通じて自分の言葉で講演者に直接質問を投げかけました。一部の質問者は講演者と顔を見合わせる形でお話されており、オンライン開催でありながら双方の活発な交流が実施できた時間となりました。今回は、目標を実現するために進路を決めた時期や進路の決め方についての質問が多くありました。お二人が丁寧に回答してくださったことで、参加者の方々が目標を実現するための具体的な手掛かりをつかむ時間となっていたように感じました。

 

懇談会(ブレイクアウトセッション)

閉会の後、希望者のみで懇談会を行いました。ブレイクアウトセッションのツールを用いて2つの部屋を作り、講演者が1人ずつ部屋に入って、参加者との交流の場を設けました。それぞれの部屋の司会進行は、本学理学部生物学科3年生の池田陽香さんと本学大学院ライフサイエンス専攻修士1年生の大堀智博さんが担当しました。講演の部よりも少人数での実施となり、より講演者と参加者の距離が近く、盛んなコミュニケーションが行われていました。