2021年1月23日(土)講義:13:30~16:40
中久保 豊彦氏(お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 准教授(環境システム学))
講義前夜の夕飯、某和風カレーの名店の裏メニューの焼きそばについて、「出汁4つはカレーと共通、自家製ラードは豚の西京焼きを作る際のもの。現在よく言うところの『サステナブル』です」と伺いながら舌鼓を打っておりました。「SDGs(Sustainable Development Goals…持続可能な開発目標)」、すっかり耳に馴染みましたし、例のカラフルな表もぼんやり思い浮かびます。しかし、子供は学校でしっかり習うのかもしれませんが、すでに大人の身は自分で学ばなければなりません。明日がその機会!とテンションが上がりました。
お茶大の誇る若手研究者、中久保豊彦先生が初登場されました。初めに自己紹介かたがた、ご研究について教えていただきました。
環境のモデリングについて、可視化されることで専門家でなくても理解しやすく、これが政策の合意形成や支援にも使われるものであることを理解しました。研究者が環境の現状を把握し、対策効果を分析してきちんと説明することが、より無駄のない事業コストにも繋がっているのですね。
前半では環境政策の変遷についてお話しいただきました。環境問題への取り組みについて伺っていて、自分の知識が高校で習ったくらいで止まってしまっていたことに気がつきました。新聞は読んでいるつもりでも、やはり専門家に教えていただくと理解が深まります。時間、空間、社会の3つの軸による地球温暖化の解説では、この問題の深刻さについてあらためて直視することができました。
続く地球温暖化対策のお話では、仕組みや排出量、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)と、今の温暖化政策を作る上で重要な存在となったその第4次報告書について、詳しく解説していただきました(気温変化「2℃以内」のキーワードはもはや古かったのですね…)。日本における対策についても、思えばちゃんと調べたことはありませんでした。
環境分野でのシナリオの設計についてのお話では、バックキャスト型の視点が必要であることや、東日本大震災の発生がシナリオに与えた影響についても学びました。温暖化対策の技術と、それを組み合わせた二酸化炭素排出量削減のシナリオ、家庭・オフィスなどの各分野における低炭素化の手段も詳細にお話しいただきました。
後半では環境基本計画の変遷について、どのような目的のもと進められてきたか教えていただきました。ここでも東日本大震災による影響のお話があり、重い出来事であったことをしみじみ思い返しました。それにしても「サステナブル」は環境の世界では昔からお馴染みの言葉だったとは、目から鱗のお話でした。生き物が暮らすことのできる世界を持続させていこうと、心を砕いていた専門家の方がずっといらしたということですね。考えてみれば当たり前のことなのかもしれませんが、頭が下がります。
第五次環境基本計画に関して、環境問題の解決が多様な問題の解決にも繋がるような、シナジー(相乗)効果を模索するという地域循環共生圏創造のお話は、非常に前向きになれるものでした。「地域資源」に様々な種類のものが存在するということを一覧で目にし、誰でも、自分なりの専門を生かして、何らかの形で関われるのでは?と思うことができました。SDGsはこの地域循環共生圏創造のための取組を設定するのに使えると伺い、自分ならどの目標に寄与できるか考える必要を感じました。
最後に、統合的アプローチに基づいた施策立案について、実際の地域における例について教えていただき、本日は終了しました。地元だったら地域資源は、取組は、と考えていくと、まだ活用しきれていないものもたくさんあるようです(お茶大の地域資源は?たくさん生えているドクダミでお茶を作って、仕事のモヤモヤを排出するデトックス茶として徽音塾でブランド化できる?)。質疑応答の時間も十分設けていただき、本日参加されているメンバーそれぞれのお仕事での環境問題との関わりもうかがえて興味深かったです。
受講者の皆様からは、「企業でも元々やってきたのは国や自治体と連携した目標へのアプローチがメインで、本来どういったことが環境のターゲットだったのかを改めて整理することができました。KPIの設定へのアプローチは特にこれから企業で目標を設定する上でも役立つと思いました」、「自社が原子力・火力発電所向けの設備を手掛けているため、どちらも減っていく方向で事業への影響が大きいと考えていましたが、炭素貯留の話は知らなかったため、教えていただけてよかったです」、「より良い地球環境を作っていくためには、多様なセクターが連携することが不可欠であり、私たちはそのどこかにかかわっている、だから私たちはもっとSDGsを自分ごととしてとらえ、取り組む必要があると思いました」などとご感想をいただきました。
ご講義と質疑応答で得るところの多い今回でしたが、次回はディスカッションも予定されているようでますます楽しみです。
中久保先生、重厚な資料とお話をありがとうございました。来週もよろしくお願いいたします。
文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)