2021年1月30日(土)講義:13:30~16:40
中久保 豊彦氏(お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 准教授(環境システム学))
中久保先生のご講義第2回です。実は先生、今回の資料のご作成中にお手元に届いた学会誌の最新号に講義内容に関連する内容が多く含まれていたため、可能な限り最新の知見を反映させようと、ギリギリまで手を加えて下さっていました。おそれいります!
今回も終始ソフトなお声で丁寧にご説明いただきました。
前半ではSDGs策定に至る歴史的経緯から、詳しくご解説いただきました。SDGsの特徴と新しさについても、ニュースでなんとなく知ったつもりになっていたところを、おかげさまで見直すことができました。例えば燃料としての木質バイオマスに関して、薪(たきぎ)を使う文化⇒拾うのは子供の労働⇒その子たちの教育は?と課題(目標)同士が芋づる式に繋がっていくということもよく理解できました。
企業による環境活動報告の変遷のお話では、「私の中ではCSRで文化が止まっていました」とおっしゃる受講者の方もいらっしゃいました。日本企業によるSDGsへの取り組みの話題では、そういえば「勤め先は、とりあえずなんとなく、流行だからSDGsを喧伝しているだけのように感じる」とおっしゃっていた塾生の方々も複数いらしたことを思い出しながら伺っていました。「3 すべての人に健康と福祉を」については、今のこのコロナ禍でさらに問題が浮き彫りになってきた気もします。
環境活動とその報告については、届出をさせることで削減の流れに繋がるというお話で頷いていた方が多かったようです。「ライフサイクルアセスメント(LCA)」に関しては、手順や目的・調査範囲の設定について、ハイブリッドカー開発のデータを例に教えていただきました。特定の期間について評価する時代から、製品・サービスのライフサイクル全ての期間について考える時代へ変わっているのですね。このことについて、さらにインベントリ分析やLCI、インパクト評価における分類化・特性化の重要性と、統合化の問題点などとお話を展開していただき、前半が幕となりました。それにしても、聞けば聞くほどCO2が気になります。
後半はバイオ燃料の話題から始まりました。そういえば、サトウキビとかトウモロコシなどで代替するという話が一時期あったけれど、最近聞かなくなったような…これも、土地利用変化を含むLCAについての研究が世に出たことで、温室効果ガス排出量をめぐる議論が行われてきたものだったのですね。環境、経済、社会の要素の備わらない技術は許容されないとのお話で、これも一時期、動物の命を守るためにもてはやされた代替品「エコファー」が、制作過程を調査すると全然エコロジカルでない製品があるとして告発されたことを思い出していました。あれは環境の要素を満たしていないものだったのでしょう。
エネルギーと持続可能性の話題では、持続可能性を尺度としたエネルギー政策論の話を皮切りに、燃料とCO2排出、電力とCO2排出、エネルギーの供給と消費と進めていただきました。Co2回収・貯留(CCS)と、化石燃料の利用構造を転換する案についてのくだりでは、お仕事柄興味を持たれた受講者もいらしたようです。
再生可能エネルギーについては、太陽エネルギーをはじめ今後の活用の余地と、再生可能エネルギー資源を活かした地域づくりについて伺いました。活用に当たり心に留めておくべきことはありますが、実現することができればいいなと思うようなお話でした。
最後に総括として、SDGs時代の環境への取り組みについて、問題解決に向けた枠組み設計、環境基本計画、統合的アプローチによる施策効果の構造化、気候変動対策とおさらい的にお話しいただき、環境への取り組みの現場で見えてくるものについて先生のご見解を披露していただきました。
また、2回の講義を踏まえた上で、受講者全員に、ご自分の仕事の特性や企業の方針、地域等に絡め、環境への取り組みをどのように行ってきたか、また今後どのようなことができるかなどを説明していただきました。
受講者の皆様からは、「個々人が意識することも大事ですが、生活活動の中に環境を組み込んでいく製品やサービスの提供のあり方が今後必要と思いました。個々人が環境分の費用を負担するけれども良いことをしているという仕掛けが出来れば提供側、利用側でのサイクルがうまく回るような気がしました」、「バイオ燃料の問題で、直接的なCO2削減だけでなく土地の影響などトータルで検討が必要ということが非常に勉強になりました。炭素貯留や太陽光、洋上風力発電などもCO2削減だけでなく他への影響も考慮することが、関わる企業としても求められると感じました」、「講義後のゴミ雑談も大変興味深いもので、もう少し話を聴きたかったです」などとご感想をいただきました。
中久保先生、普段ビジネスの方面からの視点にはあまり関わっておいででないと謙遜されていらっしゃいましたが、ビジネスにも大変有益なお話をありがとうございました。得るところが大きかったです。
文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)