2021年5月8日(土)講義:13:30~16:40
宮里 暁美氏(お茶の水女子大学アカデミック・プロダクション 特任教授)

リニューアルした2021年度が、とうとうスタートしました!
「女性のエンパワーメントとリーダーシップ講座」(E講座)の「子どもとは何か ~子どもと過ごし関わる中で問い続ける~」が嚆矢です。
宮里暁美先生は子どもの世界に耳をすまし、目をこらしていらした方です。温かく穏やかな雰囲気に、自分が幼稚園生の時の園長先生を思い出しました。

直前までのお申込が相次いだ今回、絶賛楽しく子育て中という方、あべこべに我が子に最近モヤモヤ中という方、そろそろ新しい家族が増えるタイミングという方、職場の子どもを持つ同僚への理解を深めたいという方など、「子ども」をめぐる多様な皆様にお集まりいただきました。「子ども園で保護者としてお世話になりました!」という方と宮里先生の、感動の再会のシーンも。

「「問い」をもつ」というお話から前半が始まりました。それは自分の中に余白を作るということかもしれないというお話が、早速響いた方が多かったようです。「果たして自分自身の子育てが「余白=余裕」を持てただろうか?とハッとした」などと、ご感想をいただきました。

それから「大学で学ぶ」、「幼稚園保育者になる」、「こども園を創る」、「子育て」の4つの軸で、先生のご経験を交えながらお話しいただきました。
お散歩中に田んぼの水路の十字になっているところに置いた石一つで巧みに水流を分岐させているのを見て、生活の知恵に感動すると同時に「遊んでいる子たちが、物の位置を少しずつ変えているのに似ている」と感じ、遊びの近くに知恵があることに思い至ったというエピソードには、先生の謙虚で優しいまなざしが感じられました。

関係学のこと、自分らしさを保つこと、多様であることの素晴らしさ、親であることの嬉しさと難しさ…子どもたちの発言、行動(思わず笑ってしまうものから、妙に考えさせられるものまで)をご紹介いただきながらお話しいただくと、妙に腑に落ちました。
自筆の愛らしいイラストや光と影の明暗が美しい写真などもたっぷり見せていただきました。子どものすごす室内の写真について、「場が私たちに伝えているもの」、「その中に子どもの香りがするよう」なことをご説明いただいた時には、いったい自分はいつから、このような場所の住人でなくなってしまったのだろう、自分の中にまだ、この世界にいた頃の子どもは存在しているのだろうか、とちょっと寂しいような気もしました。

「この時、子どもはなんと言ったでしょうか?」、「なぜこの子たちはこうしなかったのでしょうか?」という先生の体験談からのクイズでは、グループごとに和気藹々と意見百出、正解に笑いが湧き起こりました。
「いつも子どもに驚かされてばかり」とおっしゃる宮里先生ですが、見逃してしまいがちな子どもの行いをやさしく掬い取って語って下さるおかげで、自分はとっくに大人になってしまい、あとは無感動に老いていくだけと思っていた心が揺らぐようでした。
知りたいことは、子どもの中にあるというお話で、前半が締めくくられました。

休憩をはさんだ後半では、自分の原風景、思い出について発表し合いました。「記憶を旅するのは、人生を味わい直す手段」、「幸せな時代の記憶が、今の自分の助けになる」、「自分の原風景に子どもを置いてみる」とのお話に、そうか、振り返るとそのような豊かな世界があったのだと目がさめるようでした。

そして、モネの睡蓮の絵を前にして保育園児がつぶやいた言葉の逸話を皮切りに、子どもの行為の理解について解説していただきました。先生の周りで起きた子どもたちの遊びの事例について、写真をたくさん提示しながら、彼らが何にこだわっていたのか、どういうつもりだったのかを丁寧にお話しいただきました。「楽しそうにわけのわからない遊びで盛り上がっているなあ」としか見ないような日常の子どもの行動も、先生の繊細に感じ取る目には、しかと理由のあることとして捉えられ、その多彩な世界までも覗かれていらっしゃるのだなあと、しみじみと感動です。

最後に、浮世絵や古写真にみえる子どもの姿についてご紹介いただいた後、暮らしの中の子どもについて、保育の実践の観点からもお話しいただきました。そして先の見えない不安な世界で生きる現状に、やさしい激励とアイデアをいただき、結びとなりました。

受講者の皆様からは、「講義中は自分の子どものことばかり考えてしまいましたが、最後の「子ども+で語り合おう」の問いで、視野を広げることの大切さに気づかされました」、「「子どもとは何だろう」を理解したく参加したのですが、講義の最初の方で、「私たちも子どもだった」という先生のお話に、自分が子どもだった事をすっかり忘れていた自分に気づき、面白いなぁと思いました。また、講義を通してはっきりとした答えを見つけたかったのですが、「わからない」という言葉が本当にふさわしく、わからないからこそ気付き考えさせられ、子育てが面白いのだと感じました」、「『日本だんごむし協会』すごく気になりました(笑)」などとご感想をいただきました。

宮里先生、講義のオマケで子育て/人生相談(?)にも応じていただきありがとうございました。「もっとパキッと答えたいけど、モチャモチャね」と笑っていらっしゃいましたが、これも「余白」ですね。
終始温かいお話をありがとうございました。先生のいらっしゃる子ども園にも、そのうち虫でも連れて遊びに参ります。

文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)