2021年6月12日(土)講義:13:30~16:40
三宅 秀彦氏(お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 教授)
神原 容子氏(お茶の水女子大学 ヒューマンライフイノベーション研究所特任助教)

新体制も2ヶ月目、とうとう「お茶大プロフェッショナルレクチャー(P講座)」がスタートしました!
お茶大の先生方に講師を務めていただくこのシリーズ、嚆矢は三宅秀彦先生と神原容子先生の、医師&看護師コンビでした。お二方とも現場でのご体験から遺伝医療/遺伝専門職の重要性に気づき、研究や普及活動に努めていらしたご経歴をお持ちです。受講者の皆様は、なんとなく健康に不安があるという方から、医療の進歩に興味があるという方、専門的な知識をお持ちの方までいろいろでした。

まずは三宅先生から、遺伝学の発展から得られた恩恵の話を皮切りに、この分野に疎い人にも分かるように、遺伝、ゲノム、そして医療の最先端についてご説明いただきました。「理科が嫌いな人は頭が痛くなっちゃうけれど」と示していただいた遺伝子とタンパク質の図、そういえば大昔に生物の授業で見たような…。「東京の地下鉄みたいでしょう」と挙げていただいた代謝経路MAPの図は緻密で美しく、複雑に絡み合って機能しているとのお話に気が遠くなる思いでした。
ゲノムも今や全体図は見ることができるようになったとのお話で、でも分からないところは多く、「映画の『シン・ゴジラ』でゴジラの遺伝子情報は判明したものの、使い方がよく分からなかったようなもので」とのご説明に何人か頷いていらっしゃいました(ご覧になったのですね)。ヒトゲノムの構成を見ると、なんだか分からないけれど役に立っているというものが大半だそうです。徽音塾も社会でそうありたいです!
遺伝子と疾患との関わりについては、浸透率、表現度などにより、メンデルの法則よりも遙かに複雑に現象が起こることを教えていただきました(エンドウマメで頭が止まっておりました)。多様な患者に合わせた個別化医療の重要性と最新状況についてもお話しいただきました。ゲノム医療、ゲノム創薬というものはまだまだ未来の、ほぼSFの話のように思っていましたが、ここまで進んでいたとは…。それどころか、「ゲノムの情報がなければ薬が作れない」世界に変わりつつあったとは…。
遺伝情報についてのご解説の後、2グループに分かれてそれぞれ別の病気の事例について、発症前診断に関わるグループワークを行いました。

続けて三宅先生から、簡便化の進む遺伝子解析と個人情報について、倫理的な側面からもお話しいただきました。そして先程と同じグループ分けで、同じ病気を対象にして、どのような支援が必要かを当事者/相談された人の気持ちで考えるワークを行いました。

神原先生にバトンタッチ。先生には遺伝カウンセリングについてお話しいただきました。発祥、定義、ガイドライン、種類と対象についてご解説いただいた後、具体的な遺伝カウンセリングの対応について詳細にご紹介いただきました。
遺伝カウンセリングがなぜ必要か、遺伝情報の特性を配慮した対応の重要性、遺伝カウンセリングの教育的役割についても教えていただきました。誤った情報を信じてしまうことで、選択を誤ったり、偏見が生じたりする危険性があるというお話では、自分も誤った情報をいつの間にかなんとなく鵜呑みにしていたことに気がつきました。
遺伝専門職について、また、認定遺伝カウンセラー®(神原先生はこの肩書もお持ちなのです)とは?というお話や、遺伝カウンセリングを受けたり、遺伝カウンセラーにあったりするには?ということも教えていただきました。このくだりでは、「おかげさまで、某医療ドラマで抱いた疑問が解けました」という方も。まだまだ数が少ないようですが、今後ますます必要とされるお仕事と存じます。神原先生もきっとチーム医療で人を救っていらしたのだなあと考えながら聞いておりました。

休憩後に追加資料をいただき、三宅先生からさらにお話しいただきました。新たな難病の医療提供やがんゲノム医療推進、ゲノム情報を用いた医療実用化といった体制のお話、ゲノムカウンセリングのお話、ゲノム編集赤ちゃんの話(言わなければ分からないという、誤解を承知で言えば完全犯罪のような世界なのですね)、ゲノムによる疾患と特性は表裏一体というお話(特定の病気Aを抱えていると病気Bには強いような事例もあるため、安易に「○○病に強い個体」に作り替えるのは危険)、倫理原則の米国型・欧州型の違いと特徴のお話と、さらに細かい情報をいただくことができました。
また、実は冒頭の先生方のご紹介の際に、実施委員長の小林先生から「ゲノムの観点からも、人種という区分は正しくないですよね?」という質問があったことに応えて、ヒトという種はあるが、人種というものは曖昧で複雑であることを、データを示してご説明いただきました。

最後のグループワークとして、遺伝子疾患に対してどのような社会整備を行えばよいか話し合った後、3回のグループワークについてそれぞれ発表し、丁寧にコメントを加えていただいて幕となりました。

受講者の皆様からは、「これまで遺伝とは近いようで未知の存在でしたが、遺伝情報を事前に知り、その特殊性も理解することで、健康管理へ繋げられることが理解でき、正しい情報を知ることはとても大切であると感じました。とても興味深くて、遺伝について身近に感じられるようになりました。ありがとうございました」、「遺伝カウンセリングという業種で社会に貢献していらっしゃる方々のことを、恥ずかしながら今回初めて知るに至った。今後、周囲に遺伝性疾患に悩まされる方々が出てくるかもしれないし、その時に私が適切な言動を取ることができるよう、今日学んだことは知識として蓄えておきたい」などとご感想をいただきました。

三宅先生、神原先生、まるっきりの素人にも理解できるように、最新の話題をたっぷり丁寧にご紹介いただいてありがとうございました。自分や親族の間だけでなく、勤め先や地域でも起こりうる問題の解決策をつかむ糸口になる情報を得られたと感じた方が多かったようです。倫理的な問題に目を向けるべきことについても、あらためて意識することができました。
(受講者の皆様が真面目にグループワーク中、「ムキムキ鯛」などの面白いお話もありがとうございました!)
グループワーク時のサポートには、実は年明け1月のP16_「サステナビリティを目指した遺伝リテラシー」をご担当いただく佐々木先生にも加わっていただいておりました。佐々木先生、ありがとうございます。ご講義楽しみにしております!

「リーダーシップを発揮するための、深い知識と高度な教養を本学教員から学ぶ」ことを標榜しているこのP講座、今後も多様な専門の教員が、研究者ならではの話題と共に登場します。ご自身の人生に役立つ知識と教養を、ぜひつかみ取りにいらして下さい。

文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)