2021年6月26日(土)講義:13:30~16:40
藤原 葉子氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 教授)

「お茶大プロフェッショナルレクチャー」(P講座)として、本学基幹研究院 自然科学系教授の藤原葉子先生に「植物油と健康~氾濫する食情報に流されないために~」のタイトルでご講義いただきました。

講義に先立ち、最近、ニュースなどにおいてよく耳にする「エビデンスがある」とはどういう意味なのか、についてお話しいただきました。「エビデンス」とは「科学的根拠」であり、どのくらい妥当性があるのか、確からしいか、ということを示す指標(基準)となるものです。このエビデンスには様々なレベルがあり、被験者の数、論文数などによりそのレベルは変わることを説明いただきました。

この説明をもとに、藤原先生は受講者に「食べ物を食べることによりどのような効果があるのか」、「そのエンドポイント(到達点)をどのように評価するのか」などを問いかけました。その問いに対し、藤原先生は日本人を対象とした研究事例が未だに少ないこと、食べ物を食べることによる効果は薬ほどの効果が得られにくいこと、様々な食べ物を食べ合わせや相互作用などの影響があること、そしてそもそもヒトには多様性(体質や遺伝子多型など)があることを説明され、客観的に誰が見ても妥当な到達点を得ること・示すことの難しさを知りました。

続いて、本日の講演タイトルにもある「植物油」の脂肪酸の種類と構造、不飽和脂肪酸の代謝、不飽和脂肪酸の「n-3系(オメガ3)」、「n-6系」の命名方法とその役割について説明いただき、私たちが日常生活において使用している家庭用食用油の脂肪酸組成は、リノール酸(大豆油、コーン油、綿実油、ごま油など)、α-リノレン酸(亜麻仁油、シソ油、フラックス油など)、オレイン酸(オリーブオイル、ひまわり油、サフラワー油、菜種油など)であり、今売られている油のほとんどがオレイン酸リッチ(キャノーラ油、ひまわり油、サフラワー油)であることを知ることができました。

さらに、オリーブオイルやパーム油とはどのようなモノであり、どのようなところで使用されているのか、油に含まれるビタミンEがどのような生理作用を果たすのか、健康を考えたうえでどの程度脂質を摂取すればよいのか、についてもお話しいただきました。中でも、平均的な日本人が普段食べている食事内容が適正で健康的に脂質を摂取する内容になっているとのお話は印象的で、脂質の側面から見ても「日本食」は世界から注目される「健康食」となっていることに、日本人としてとても誇らしい気持ちになりました。

「植物ステロール」の話では、市販の食用油のパッケージに書かれている文言が意味することについて説明いただき、私たちがいかに日々氾濫する食情報に流されて行動しているのか、ということを実感しました。

講義中に紹介いただいた研究事例は大変興味深いものばかりで、その成果をもとに私たちが普段目にし、口にする商品となるものがあるとの説明に、食物と健康に関するエビデンスレベル向上のために藤原先生をはじめとした研究者が様々な努力を重ねておられることを知ることができ、このような研究を継続・発展させる意義を強く感じることができました。

受講者からは「人間は栄養を摂らなければ生きていけないにもかかわらず、様々な事情で、比較的栄養にフォーカスした研究、エビデンスがそう多くないということは盲点だった。エビデンスに基づき正しく理解することももちろん大事だが、栄養や食事は人間の生活の質や潤いにもかかわるので、食事内容のみならず、主観と客観のバランスにも大きく影響するのかもしれない。」などの感想をいただきました。

このたびの講義において、様々な植物油の種類とその特徴を学び、日本人が普段食べている食事は脂質を程よく摂取できる内容ではあるけれど、食生活の変化で崩れないようにバランスよく食事することで健康的に脂質を摂取できることがわかりました。氾濫する食情報を正しく読み取り、活用するためには、このような知識を身に着けることがとても大切であることを認識した3時間でした。

文責 内藤 章江(グローバルリーダーシップ研究所 特任講師)