2021年7月3日(土)講義:13:30~16:40
元岡 展久氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 教授)
ネットワーキングランチでも人気だった元岡先生、今年度は満を持してP講座にご登場いただきました!
徽音塾実施委員長の小林先生による元岡先生のご紹介から、まずは自己紹介かたがた、先生が復元されたお茶大正門(Zoomの背景にご注目)についてお話しいただきました。
倉庫でお茶大の前身たる、東京女子高等師範学校(女高師)時代のオリジナルの正門の図面を発見した元岡先生、生協横では円筒形の石を見つけます。それは打ち捨てられた、かつての正門に設置されていた車止めでした。「伝統と歴史を大切にする」精神のもと正門復元の必要性を説き続け、紋章も女高師時代のものとし、数年後に完成に至ったのでした!
出来上がると賛否両論があったそうです。建築のプロジェクトには必ず賛成と反対の声が起こり、「建築は、スポーツと同じく誰もが批判できる分野」とのお話。しかし、ある同僚の先生の「いつこんな風に変わったの?いつも正門を通っていたけど全く気がつかなかったよ」というのが、建築家としては一番つらい一言だったという逸話もご披露いただきました。
ご講義の最初は、「建築家」という存在についてご説明いただきました(自称「建築家」は怪しい人?「建築士」なら大丈夫?)。いかにもこんな建築家がいそうと思うような昔のカリカチュアや、錚々たる顔ぶれの有名建築家たちのアクの強いポートレートの数々、何がどう描かれているかよくわからないデザイン画などを示しつつ、ユーモアを交えて建築家たる人種とその思考法の一片を語っていただきました。
元岡先生もそういえば、(怪しくはないですが)いつも特徴的な素敵なお召し物。本日はインドのカラフルな布をふわっと巻いてご登場でした。
ちょっと珍しいお名前の受講者のお一人について先生があれこれ質問をなさった後、とある身近な持ち物を用いたグループワークに入りました。一人の持ち物について、ほかのメンバーが根掘り葉掘り質問をし、そこで得た印象からその人の生活観について推測するというゲームです。雑談的に先生が受講者に質問されていたのは、このグループワークの見本だったのでした!
自他を理解するためのこのグループワーク、質問・推測するメンバーは切れ味鋭い推理、あるいは明後日の方向の空想を繰り広げ、質問される側の人は「そういえば、このこだわりは子供の頃育った家に通じている」などと遠い記憶との関わりに思い至る場面もあり、横から眺めているだけで大変面白いものでした。
実はこれは、建築家の思考法の一端を体験的に理解するものでもありました。依頼主の些細な言動やわずかな特徴から、その人が本当に望んでいる住まいを見抜いてデザインを考えるというものです。「住みやすくて、将来を考えてバリアフリーで、…etc.」と通り一遍のことしか言わない相手の、一番に求めるものは何か。それを見つけて、その人が満足する家を作り上げるのが、先生が建築をお好きなところだそうです。
そして逆を言えば、住まいからどういう人物か当てることができるということについてもお話しいただきました。架空の作品の家族が住む家の見取り図や、ある有名な建築家の実際に手掛けた家の写真と見取り図などを例に、そこに住む人たちの家族構成や生活様式、時代性、地域性、家屋の中の動線など様々な情報が読み取れることを教えていただきました。あの作品のご家族、確かにそんな家でした!
後半は先生が設計した住まいの数々を、それぞれのコンセプトと共にご紹介いただきました。依頼主の多くの要望の中から「眺望」が第一と汲み取って独立後初めて担当した絶景住宅、細長い敷地を活かし家族の今後も配慮した視界の広い家、格安の屋根裏部屋に大胆に改修を施したパリのアパルトマン、とにかく真っ暗闇の中で眠りたい人のための一室を組み込みつつも開放性を持たせた一軒、イラストとストーリーから街に合うように学生と考案した川沿いのアパート…いずれも住まい自体のお話も面白い上に、それぞれにお住まいの方々についても、「いったいどんな人たちなのだろう」と興味が引かれました。
最後に取り上げた家のお話から、近年多い災害の話も引きつつ某名作テレビドラマを取り上げて家庭と住宅の一体性について話題が及び、幕となりました。
受講者の皆様からは、「コミュニケーション能力やイマジネーション能力、クリエイティブ性など、工学部のイメージとかけ離れた能力を必要とすることが分かり、とても視野が拡がったように思います。これまであまり専門的に学んだことのない分野のご講義でしたが、知らないことを知るのは楽しいと改めて感じることができました」、「一つの住宅のデザインのような、個別の事例に思えることが、実際には時代やより大きなものを反映しているという、これからの人文知の生かし方についてのお話も強く印象に残りました」などとご感想をいただきました。元岡先生に自宅をデザインしていただけたら楽しそう!という声もありました。我が家もボロボロでそろそろ家庭と共倒れしそうなのですが、なんとかなりませんか、先生…。
元岡先生、たくさんの情報の詰まったお話を、専門ではない人にとっても軽妙に面白くご披露いただきありがとうございました。楽しく拝聴しながら、知的な興奮を得ることができました。残念ながら今回の受講者は少人数でしたが(ネットワーキングランチの際に「先生のご講義があったら絶対出ます!」とおっしゃっていた方々は、今回都合がつかなかったに違いない…きっとそうです!)、ゼミ的な雰囲気のもと楽しく盛り上げていただき楽しかったです。まだまだコロナ禍で実現できませんが、いずれ「正門から元岡先生と廻る!お茶大構内ツアー」もよろしくお願いいたします。
文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)