2021年7月10日(土)講義:13:30~16:40
小林 誠 氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系 教授)

「お茶大プロフェッショナルレクチャー」(P講座)として、本学基幹研究院 人間科学系教授の小林 誠 先生に「都市の記憶、都市の想像力」のタイトルでご講義いただきました。小林先生は、徽音塾の実施委員長であり、徽音塾を運営しているグローバルリーダーシップ研究所の研究所長です。

初めに自己紹介を兼ねたアイスブレイクとして、自分の好きな(もしくは育った)街について紹介し、その都市がどこであるかを当てるワークを行いました。ワーク後、小林先生から昔育ったところを大人になってから改めて見ると小さく見えたり距離が短く見えたりする、との説明があり、大人になると身体の成長に伴う視点の変化だけでなく「何に着目するか」などの見る対象や注目するポイントが変化することに気づきました。個人の都市の記憶が「その人らしさ」を表し、自己紹介をさらに印象的なものにしました。

引き続き、小林先生から北京、平壌、ワシントンDC、ゲルマニア、ネビドーのそれぞれの都市がどのような歴史的背景を持ち、どのような特徴や意味を持つ都市であったのか、説明がなされました。都市は政治や権力を象徴し、体現するものである、そして国の在り方を示すものであるとの説明をお聞きしながら映像資料や写真資料を拝見すると「確かに!」と思うことが多く、それぞれの都市は意味を持って作られていることを理解できました。

前半は「都市の記憶」について学び、休憩をはさんで後半は「都市の想像力」について学びました。

1961年発刊の子ども向け雑誌にSF作家が構想した「2061年の東京」、つまり100年後の未来都市のイメージが掲載されており、小林先生はその資料を提示しつつ、現在のテクノロジーによって掲載されている内容はほぼ達成(実現)されていると説明されました。100年先として描かれたそのイメージは、形こそ異なりますが確かに多くは実現されており、テクノロジーが急速かつ高度に発展していることを感じた瞬間でした。

この説明の後、これから20年先、自分が今住んでいる街がどうなるのか、どうあるべきかを想像し議論するワークを行いました。ワーク参加者から、定年退職年齢が90歳になる、住みやすさが改善される、自分が動かなくてもよくなる世界になる、すべてバーチャルで経験・体験できるようになる、などの様々な意見が出されました。

ワーク後、小林先生は講義資料としていくつかの映画を取り上げ、部分的に作品を視聴しつつそこに描かれ表現されている未来都市について説明されました。映画の中で描かれている未来都市は、現実のものになるとは思えない、どれも想像の世界だと思っていましたが、小林先生のお話をお聞きした上で改めて考えてみると、子ども向け雑誌に掲載された未来都市のようにこの先本当にそのような世界がやってくるのかもしれない、イメージの未来都市が現実の都市になるのでは、と思うようになりました。

テクノロジーの発展によって、私たちの未来は非常に明るいものとなることが想像されますが、小林先生は映画「ブレードランナー」を例に挙げて、必ずしもテクノロジーが適切かつ健全に使用されるとは限らない、どのようにテクノロジーを使用するかによって未来は変化する、と説明され、AIやVRが発達した今現在においても、やはりリアルボディである「人間」がこれからの未来を決め、都市を作り上げていくのだと強く感じました。

最後に、実際にAIや自動運転などの様々な最新テクノロジーを取り入れた都市を日本国内に作り、実験的に効果を検証する取組が行われていることを説明され、講義は終了しました。

まとめとして、多くの都市構想では工学的なテクノロジーで未来が語られ、人間の社会関係における未来への視点が欠落している点を指摘されました。また、テクノロジーは重要だが社会関係の中でとらえることが必要であり、テクノロジーで豊かな社会や社会関係の未来が開けるという加速主義やラグジュアリー・コミュニズムの思想に疑問を呈しました。このような知識や考えを生み、議論を生むのが「都市」なのである、というまとめは大変印象的でした。

受講者からは「北京や平壌、ゲルマニウムなど、歴史と紐づけて都市の構築された意味や目的を考察するのはとても興味深かったです。講義で紹介された代表的な都市だけでなく、身近な都市がどのように成り立ったのか、考えてみると面白いと思いました。一方、未来に目を向けて、テクノロジーが進歩しても、豊かになるのか?といった観点での考察も分かりやすかったです。今回のオリンピックで都市の整備も進める予定であったと思いますので、そのあたりも調べてみたいと思いました。」などの感想をいただきました。

様々なものがバーチャル化され、便利かつ手軽にできることが増え、生活が豊かになったことは事実です。しかし、リアルボディがどこまで残る都市となるのか、そしてテクノロジーをどう生かすのか、これから先の未来を想像し実現するのは私たちの手にかかっているのだと、強く感じた3時間でした。想像が現実のものとなるのか、答え合わせが楽しみです。

文責 内藤 章江(グローバルリーダーシップ研究所 特任講師)