2021年10月16日(土)講義:13:30~16:40
由良 敬氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系、文理融合AI・データサイエンスセンター 教授、副センター長)
徽音塾に初登場の由良先生。ご研究も含めての自己紹介の後(え?「おいしいコオロギ」も研究なさっているのですか!?)、お話に入っていただきました。
まずはウォーミングアップとして、身近な新聞記事を取り上げながらお話しいただきました。
デザイナーベビーや遺伝子治療等の技術については、倫理的な議論と遺伝カウンセラーの必要性のこともご説明いただきました。P05_「ゲノム医療時代の健康管理と遺伝カウンセリング」にご登壇いただいた三宅秀彦先生の記事も取り上げていただいたことで、遺伝カウンセリングの重要性について、より深く理解できたように思います。
コンピュータによる生物研究と医療ビッグデータの話題に関しては、本来は物理屋だった先生が、「もっと面白いことを!」と生物の道へ進まれたエピソードもご紹介いただきました。
あらためて記事の数々を眺めてみると、先生のおっしゃるように、この分野に関する事象は新聞にかなり多く取り上げられているようです。今後注目していかねばと思いました。
本題では最初に「分子生物学の基礎」として、基本のところから丁寧に教えていただきました。
遺伝子、核、染色体、ゲノム…どれもぼんやり同じようなものと括って考えてしまっていましたが(遠ざかる高校の生物の授業の記憶)、あらためてご説明いただくと、自分の体がこのように微細なものから組み立てられているのか…となんだか不思議な感慨にふけってしまいます。しかも、動く(!)3Dモデルを見せていただくと、今、この瞬間も体の中でこんな風に動いている?とさらなる驚きが。先生によると「理系の人間はこういう細かいのが好きなんですよ」とのお話ですが…人体は神秘的です。
長いゲノムを小さな核に格納することについての考察のワークなども通して、この細かい世界にとてつもない情報量が込められていることと、その僅かな違いによって病気の起きる・起きないも変わること、そしてまだ分かっていないことも多いことが見えてきました。
次に「ゲノムプロジェクト概観」として、体の違いを作る設計図たるゲノムを読み取るプロジェクトの歴史と成果についてお話しいただきました(プロジェクト提唱者の和田先生がかつてお茶大で教鞭を取っていらしたことも、寡聞にして存じ上げず汗顔の至りです)。
それに関連して、人のゲノムの中にウイルス遺伝子があるということや(新型コロナウイルスのニュースで気になっていました!)、遺伝子の数と体の大きさは無関係であること、そしてゲノム塩基配列データの解読から進化について迫るという興味深い話題も取り上げていただいたところで休憩に入りました。
後半は「DNAの違いによる疾患」のお話から始まりました。ヒトゲノムの読み取りは完了して10年経過した2010年頃においては、ヒトの健康増進などにその情報はまだ十分には役立っていなかったようです。
SNP(ゲノム塩基配列の個人差)が、体質や特定の病気へのかかりやすさを決めるものであるらしいことをご説明いただきました。それに関連して、現在ますます手軽にできるようになった遺伝子検査サービスについても教えていただきましたが、データの読み取りには統計学の素養も必要とのお話で、専門の遺伝カウンセラーの存在が本当に大事であると感じました。遺伝子検査の結果によって体の一部を予防的に切除した衝撃的なニュースもありましたが、グループワークでは、自分ならどうするかという事を考えて発表していただきました。
またゲノム情報から病因を特定する方法についても解説していただきました。変異を示す表現の読み取り方や、先生が予想で明らかにしたタンパク質の変異部位のモデル構造の見方などについても教えていただきました。「バイオインフォマティクス」とはこのような学問なのだなと、門外漢ながらその重要性を垣間見ることができた思いです。
最後に「これからの疾患予防」として、遺伝カウンセリングのお話をしていただき、幕となりました。出生前検査の話題も取り上げていただきましたが、手に入る情報が増えるという事は、判断を下さなくてはならない事も増えるという事を感じ、難しさも胸に残りました。
受講者の皆様からは、「一番印象的だったのは、遺伝子修復の様子を分子レベルで3Dで見ることができたことです。ユーフォ―キャッチャーのように巧みに遺伝子を捕まえて、SF映画のように修復していく様子は生命の神秘に対する畏敬の念と驚きでいっぱいになりました。本当におもしろくて興奮しました」、「特にSNPを解析することで、自分の遺伝子型を知ることができるということとリンチシンドロームのお話が勉強になりました。自分や家族の遺伝子型を知ることによって、疾患の症状の出方に対する解決法や予防策を考えることができる可能性があることがわかりました。ただ、知らない方がよかった情報も知り得てしまい、不要な不安を抱く可能性も否定できないため、適切な遺伝カウンセリングをともに情報を知ることが必要だと思いました」などとご感想をいただきました。
由良先生、文系には理解できないかもしれないと慄きつつ迎えた当日でしたが、分かりやすく面白くお話しいただきありがとうございました。おかげさまで家族間・血族間でも病気になる・ならないが異なることをはじめ、もやもやと疑問に思っていたことをいろいろ理解することができました。
次回はぜひホットな昆虫食(しかもおいしい)のご研究のお話もお聞かせ下さい!
文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)