2022年1月15日(土)講義:13:30~16:40
佐々木 元子 氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系 助教)

本学基幹研究院 自然科学系助教の佐々木元子先生に「サステナビリティを目指した遺伝リテラシー」のタイトルでご講義いただきました。佐々木先生は本学の教員として活躍されていますが、認定遺伝カウンセラー®としてもご活躍です。

はじめに自己紹介として、これまで構造生物学・生化学・分子生物学を学んできたこと、研究所や企業の研究員として働いてきたこと、本学の大学院において遺伝カウンセリングを学び、その後は中学・高等学校で理科を教える非常勤講師を務めるなど、多様なご経験を紹介くださいました。佐々木先生は、本学着任後も病院でのカウンセリング業務を担当されており、豊富な臨床経験をもって教育・研究に取り組んでおられます。

自己紹介の後、佐々木先生は「こんな遺伝子検査があったら受けたいですか?」と受講者にいくつか問いかけました。受講者からは「ダイエット型がわかると嬉しい!」、「病気であることが確定されたら今後の治療法を考えることもできるから検査するのはよいと思う」などの声があがりました。才能がわかる検査、ダイエット型がわかる検査、将来の病気の可能性がわかる検査、病気を確定するための検査など、様々な遺伝子検査があります。果たしてこれらの検査で得た情報は何を示しているのでしょうか。佐々木先生はそのような問いかけを受講者に行ったうえで講義を始められました。

近年、ドラマや漫画などにおいて「遺伝病」や「遺伝子」を扱うことが増えており、私たちは「遺伝」という言葉を耳にする機会が増えています。また、自身の病気が子どもに遺伝しないか、高年妊娠で子どもに何かしらの影響があるのではないか、などの「遺伝に関する心配事」も増えています。ここで、佐々木先生から「遺伝カウンセリング」と「認定遺伝カウンセラー」とは何か、どのような役割を果たしているのか、について説明いただきました。

遺伝カウンセリングとは、染色体や遺伝子が関与している生まれつきの病気や特性・体質に関する様々な問題について相談できるところであり、認定遺伝カウンセラーは良質な遺伝医学情報の提供に加えてチーム医療におけるコーディネート作業などの役割を果たしています。佐々木先生は、認定遺伝カウンセラーが専門の異なる複数の医師と連携し、相談者の家系図の聴取や知識の確認、他科受診の調整などのフォローアップを行う様子について、ご自身が担当した仕事を事例として挙げながら具体的に説明くださいました。遺伝カウンセラーの資格は、遺伝カウンセラー養成専門課程大学院を修了することで受験資格が得られますが、医学部を持たない大学(大学院)でこの受験資格を得ることができるのは本学(お茶の水女子大学)のみであるとの説明も付け加えられました。

引き続き、ゲノムや遺伝子とは何であるか、染色体はどのような特徴を伝えるのか、親から子へどのような内容が伝わるのか、遺伝子の働きの違いによってどのような違いが生まれるのか、遺伝子検査とは何であるか、について説明いただきました。このお話から、「遺伝子検査」が薬の効き方や起こる副作用の予測、がんの再発予測に役立つことを学びました。

病気発症前に発症リスクを確認する「発症前診断」について、佐々木先生はニュースでも話題となったアメリカの女優アンジェリーナ・ジョリー氏の乳がん・卵巣がん発症にかかわるリスクへの対応事例を取り上げ、家系図を使って詳しく説明されました。また、妊娠中に胎児の状態を調べる「出生前診断」については、生まれてくる赤ちゃんの状態に合わせた最適な分娩方法や療育環境をあらかじめ検討することが目的であると説明され、「遺伝子検査や診断を受ける目的」について正しい知識を得ることができました。

病院で行う遺伝子関連検査は主として医療目的で行われますが、医療を介さない遺伝子検査サービスも複数存在します。佐々木先生が講義の初めに問いかけた「こんな遺伝子検査があったら受けたいですか?」のうち、才能がわかる検査、ダイエット型がわかる検査がこれに該当します。佐々木先生から、医療目的ではない遺伝子検査は医師の診断が行われないこと、検査会社によって結果は異なり研究が進めば確率も変わること、そして予想外の気持ちになることもある、と説明がなされ、これらサービスの活用にはリスクが存在すること、「知らないでいる権利」も存在することを学びました。そして佐々木先生が最後にお話しされた「正しい知識は『力』である」が受講者の心に深く響いたところで講義は終了しました。

受講者からは、「遺伝子情報がさまざまな用途に使われていることと利用の方法が進んでいることを知り、たいへん興味深く聴講できました。発症前診断は、結果を受け入れる勇気が必要であり、『知らないでいる権利』の存在の重みも併せて感じました。」、「遺伝子が身近に感じられ特に遺伝学的検査が興味深かったので、今後も自分なりに遺伝子に関する情報を追っていきたいと思います。」などの感想をいただきました。

このたびの講義において、「遺伝子検査」は私たちに様々な情報を提供してくれることを学びました。しかし同時に、安易に行うものではないこと、正しい知識と目的をもって行う必要があることも学びました。私たちが勇気をもって遺伝に関する心配事に向き合い、検査結果を受け入れ、前に進むためにも、遺伝にかかわる正しい専門知識を持つ「認定遺伝カウンセラー®」の存在とサポートは不可欠であると感じた3時間でした。

文責 内藤 章江(グローバルリーダーシップ研究所 特任講師)