2022年2月5日(土)講義:13:30~16:40
汐崎 浩正 氏(汐崎法律事務所 所長弁護士)
汐崎浩正先生による「これからの女性リーダーが知っておきたい法律」第2日目は、第1日目に学んだ「労働基準法」の続きからスタートしました。
初めに「賃金」は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないとの説明がありました。当たり前の事では?と思うものの、現在は電子マネーによる支払いが一般化しつつあることから、今後通貨と同視して賃金支払いも電子マネーとなる可能性が示唆されました。また、最低賃金は地域によって異なることが紹介され、地域特性があるため全国一律の最低賃金を設置することの難しさが示されました。
時間外及び休日の労働にかかわる法律や、いわゆる「三六(さぶろく)協定」はよく知られていますが、職種や業種、地位によっては適用されないこともあります。汐崎先生から、三六協定で延長された労働時間や休日の労働時間は、割増賃金の対象となるが、一方で管理職や監督者は例外的に適用されないことがある、と説明されました。
働き方の一つである「裁量労働制」は、労働の量よりも質や成果に応じた報酬を払うことが適切な労働者に適用されることが多い仕組みです。裁量労働制は、会社にとって割増賃金(残業代)の支払額を減らせる仕組みとも言われ、実際にみなし労働時間以上の労働を要求されても断れないことがあり、過労死につながる事例も紹介されました。受講生は、クリエイティブな仕事を行う人たちが健やかにその力を発揮できるよう、勤務状況の管理や体調管理がより一層大切になることを学びました。
汐崎先生から、労働基準法には女性保護の条文が4つある(産前産後休業、妊産婦の時間外労働の禁止、育児時間、生理休暇と呼ばれる生理日の就業についての条文)との説明がありました。いずれも保護対象は労働者ではなく明確に「女性」であると示された条文はとても印象に残りました。一方、育児・介護休業法は男女を問わず労働者であれば申請でき、2022年10月(一部4月)より施行される最新改正では、父親に「出生時育児休業(産後パパ育休)」が認められ、これまでの育休とは別に父親は子が生後8週間になるまでに休業できるようになり、育休を父親・母親がそれぞれ二分することも可能となるなど、女性が働き続けることを後押しする法改正が行われるとの説明がなされ、前半の講義は終了しました。
講義後半は男女雇用機会均等法の説明からスタートしました。1985年に成立した法律であり、日本国憲法第14条第1項(法の下の平等)に従い、雇用において性別による差別を禁止し、規制する基本的な法律として紹介されました。1997年に法改正があり、努力義務から禁止規定となり、その後の改正で特にセクシュアル・ハラスメントの防止措置を講じる義務が明確に記載され、不利益な取扱いは禁止されると紹介されました。ハラスメントには様々ありますが、汐崎先生はセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)、カスタマーハラスメント(カスハラ)の3つについて事例を用いて説明くださいました。特にカスハラは、客からの強烈で執拗な要求、暴言や抗議が会社にとって大きな問題となり、多くの時間と労力が必要となるだけでなくクレーム対応する従業員の精神的疲弊が問題であると説明されました。これに対応するため、2022年3月末までに厚生労働省が企業向けの対応マニュアルを公表する予定との説明が加えられ、法制化に弾みがつくのではとの期待感が示されました。
パートタイム・有期雇用労働法では、短時間労働者に対する差別的取り扱いを禁じる「均等・均衡待遇ルール」が法律となり、労働者派遣法では労働者派遣について詳細な説明がなされました。また、高年齢者雇用安定法では政府が70歳までの就業機会確保に向けた改正案を成立させたこと、障害者差別解消法では2021年6月に法改正されて2024年6月までに国や地方公共団体だけでなく事業者は差別解消の推進に必要な施策を作成し、実施することが法的義務になるとの説明もなされました。労働審判の制度や、無料の行政サービスによる紛争解決についてご紹介いただきました。
最後に女性活躍推進法に関連して、欧米の事例(女性管理職のクオータ制)や日本における状況を説明いただきました。日本は未だに女性管理職比率が低く、クオータ制も採用されておらず、代わりに女性活躍推進法が成立・整備されたとの説明があり、キャリアアップ、ワーク・ライフ・バランスにかかわる数値目標を設定し、2022年4月には労働者101人以上の会社においても行動計画の公開が義務化されるとの説明がなされました。これらの情報は、厚労省ホームページの「女性の活躍推進企業データベース」において検索することができること、また、汐崎先生ご自身が直接企業の方にインタビューされてまとめられた女性活躍の推進状況の紹介、その他の具体例の紹介があり、第2日目の講義は終了しました。
受講者からは、「実務に役立つ情報が多いセミナーで非常に有益でした。また日々法律の改定が行われているため、常に最新情報をキャッチすることの重要性も理解できました。」、「最近、何でもハラスメントというような風潮に賛同し兼ねていましたが、企業のコンプライアンスや諸々の法律遵守など、企業に厳しい法律ばかりでなく、健全な企業活動を保護するような法律は改めて必要だと思いました。」などの感想をいただきました。
汐崎先生のご講義により、私たちの生活や仕事を支え、守ってくれる法律について正しい知識を持つことや知識を更新する努力が重要であり、それをどう活用すべきか、そして何が問題かを考え、声にしていくことが大切であると気づかせていただきました。法律は日々改正が行われ、よりよいものとなります。作られたルールは「努力義務」から「義務」となることで支えはより強くなり、女性活躍の加速も期待されています。しかし、いずれは「義務」ではなく「自らが進んで実施したくなる」世の中になることを心から期待したいと思います。
文責 内藤 章江(グローバルリーダーシップ研究所 特任講師)