2022年2月19日(土)講義:13:30~16:40
長谷川 直子氏(お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系 准教授)

長く尾を引く美しい流れ星の夜空を背景に登場された長谷川先生。
開始前の打ち合わせ時間から気になって仕方がなかったのですが、諏訪湖の近くで先生ご自身が撮影された写真だったそうです。そして初めて知った、先生が「御神渡り(御渡り)」の専門家でいらしたという事実!
http://www.nagano-np.co.jp/articles/88789
「地図の先生」と思い込んでおりましたが、このお話もいずれ伺いたいです。

さて、今回は残念ながら受講者が1名のみだったのですが、その分事務局メンバーも一緒になって(「ちゃっかり」ともいいます)、和気藹々と同じ地図を覗いて先生のお話を聞く、楽しいひとときでした。
まずは挨拶がてら各自のなじみ深い土地について、把握している地理的な情報や災害とのかかわりも含めて自己紹介し合いました。小さな日本でも、本当に地形も気候も多岐にわたるなあとしみじみ思います。
私の地元はポンプがなくても豊かな地下水が湧き出す「自噴井戸」だらけ。「水」を示す地名も多い所ですが、大雨が降ると床下浸水などが起きる地域でもあります。「日頃の恵みと災害時のリスクは表裏一体」という先生のお話につくづく納得です。普段はぼんやり恵みを享受していて、当然起こり得る災害に備えていないのですよね…。

「同じ雨が降っても、場所により起こる災害は異なる」ということで、前半では人によっては懐かしい(高校の地理!)、地理と災害のお話をしていただきました。東日本大震災の発生を受け、防災学習の重点化も進んでいるそうです。

活断層のデータベースを各々操作してみる時間では、常々友人から聞いていた通り、活断層の真上に彼女の自宅があることが確認できました…有事には助けねば!日本中赤いひび割れが覆うかのように活断層だらけで、あらためて地震のリスクを認識しました。一緒に参加していた実施委員長の小林先生が乱入(?)し、「東京は活断層が少ないように見えるのですが?」と質問したところ、「活断層の調査は穴を掘らないと分からないので、それがしづらい都心部の情報は十分ではなく、実際はもっとたくさんあるかもしれません」とのご回答でした。お茶大にいても、油断はならじ!

地理によって異なる様々な災害についてビジュアル的にも分かりやすく解説していただき、日本がありとあらゆる災害に見舞われる「災害大国」であること、そして中でも水害が頻繁に発生することを学びました。落ち込みますが、直視してそれぞれの土地に合った対策を講じなければならないのですね。

現在と昔の地図を見比べて、土地の成り立ちから災害の特性を学ぶことも有用だそうです。過去に起きた有名な水害の事件も、古い地形図と見比べながらお話を伺うと、起こるべくして起こってしまったものと理解できました。そのことについて、先生も出演された催しの記録をYouTube(限定公開)で視聴し、前半が幕となりました。

休憩時間中には受講者の方が気にされていた地域の地殻変動データまでご用意下さった先生(確かに地震が多発していますね!)、ありがとうございました。

後半はネット上に公開されている、災害理解に有用な様々なサイトを紹介いただき、実際に使いながら学びました。PCでもスマホでも利用可能な、役立つものがこんなにたくさんあるのに、到達できていなかった…というのが最初の感想です。

まずはハザードマップ。各自で自宅周辺のデータをチェックしました。今回は「洪水ハザードマップ」を見てみました。我が家は屋根まで水に漬かることがわかりここでもがっかりですが、この想定は一言で言うと「あくまで1つのシナリオ」に過ぎないということを教わりました。ハザードマップで見るべきは、想定が甘いかシビアかという点、そしてハザードマップの想定と異なった降雨があった場合は…と想像する能力が重要とのお話です。ハザードマップが自治体ごとでバラバラに作られていることの問題点や、川の流域ごとに今後作られていく必要性にも触れていただきました。

次に地理院地図(国土地理院)のHPの機能を使い、自分で色別標高図を作る手法を教えていただきました。自分で細かく標高を設定して、ピンポイントで確認することができます(うん、なじみの店も水没しそうなことが確認できました。教えてあげねば)。受講者の方の地元ではかつて近辺で内水が起こったことがあったそうで、真剣に読み解いていらっしゃいました。身を守るための情報が手に入るということは、やはり素晴らしいですね。

また、現在と昔の地図を並べて眺めることができるサイトでは、土地の成り立ちと災害という前半で出た話題も振り返りつつ、実例を示しながらお話しいただきました。受講者のお住まいの地域の地図をここでも皆で眺めながら、「ここは標高が低い」、「いかにも水が出そう」などと賑やかに。時代ごとの土地利用の変遷からも、地理的な特性が感じ取れて面白かったです。

他に地理院地図の機能を使い、地形分類とその土地の成り立ちを知る方法も教えていただいた上(これを使って教えたら、小さな子でも興味を持って学んでくれそうです)、時間の関係で今日は取り上げられなかった、その他の有用なサイトや書籍についてもご紹介いただきました。
地理を学ぶ、地域について知るということは、日常の楽しみにも、いざという時に身を守る手段にもなるというお話が身に染みた回でした。

受講者の方からは、「地域の特性を知り災害を予測することがいかに重要か、そして、災害が起こりそうなときに空間的時間的に的確な避難行動をとることの重要性を理解できました」などとご感想をいただきました。

長谷川先生、今年度も危機意識の高まる面白いお話をじっくりありがとうございました。
2022年度から高校の地理の科目が必修化するとのお話でしたが、先生のメソッドがあればみんな興味を持って楽しみつつ、危険についても学ぶことができそうです。
前回の先生のお話の際は、受講者のお一人がその後、学んだことを活かして地元で防災のチームを立ち上げて、ネットでも取り上げられました。
https://suumo.jp/journal/2021/06/11/180490/
今回受講された方にも、きっとお役に立つことと存じます。
いずれ御神渡りやご当地グルメなど、地域の歴史や日常の楽しみのお話もお願いいたします!

文責 森 暁子(グローバルリーダーシップ研究所 特任アソシエイトフェロー)